壊れた指輪



「でも、マサムネ…どうしよう…此処で死んだら阿斗に会えないよ…」


死にたくない、だがどうすることも出来ない。
容赦なく打ち付ける雨は、強さを増す一方だった。
悠生は先程から、消え入りそうな意識を保つために神経をすり減らしていた。
熱はすっかり奪われ、凍った体はもう動きそうにもない。

消え入りそうな意識の中で思い浮かぶのは、やはり阿斗の顔であった。
ずっと、途方もなく長い時間、顔を合わせていないような気がする。
どうにかして生きなければ、阿斗と永遠の別れをすることになると、分かっているのに…悠生にはもう、立ち上がる気力も無かった。

そのとき、マサムネが低く唸った。
そんな鳴き声は聞いたことがなくて、何事だ、と状況を把握する前に、ザッ、と大地に突き刺さる矢を見た。
その距離は僅か数メートル程度で、悠生の冷えきっていた心臓が一瞬にして止まりそうになる。


「っ……!」


自分達が狙われているのは明らかだった。
何故、誰が…などと考える余裕もなく、悠生は黄皓に矢が当たらないよう彼に覆い被さった。
死して尚、友達の遺体を傷付けられるなんて、悠生には耐えきれない。

こんなところで死ぬぐらいなら、いっそのこと、趙雲に頼んで殺してもらった方が幸せだったと思う。
彼ならきっと…、首を絞めた後に優しく抱き締めてくれたはずだ。
あたたかい腕の中で死ねるのなら、そちらの方が断然、魅力的だろう。


(でも今、僕が死んだら、誰が、泣いてくれるの…?)


此処で命を失っても、阿斗には気付いてもらえないかもしれない。
彼はずっと、帰りを待っていてくれるだろう。
だがそれでは、悠生は阿斗の気持ちを裏切ってしまうことになるのだ。
傍に居る、という約束まで、破ってしまうことになる。


(死にたくない…死ぬのは、怖いよ……!)


悠生殿。

突然、誰かに名を呼ばれたような気がして、悠生は驚いて顔を上げた。
雨粒を顔で受け止め、呼吸が苦しいだけだ。
でも、優しい声だった。
この声の人物に、命を狙われているとは思えない。


 

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