壊れた指輪



体が、揺れていた。
耳にうるさいほどの、叩きつけるような雨の音が響いている。
びしょ濡れになっているために衣服が重く、感覚が無くなりそうなほどに、寒い。


「う、ん…、あれっ…!?」


目を開けて、悠生は愕然とする。
どうやらマサムネに跨ったまま気絶していたらしく、視界も利かないぐらいの大雨の中、木々に囲まれた一本道を歩いていた。

体温が異常なほど下がっているため、身震いした悠生は、目の前にあるマサムネの鬣を握った。
意識を無くす前のことを覚えていない。
黄忠の邸を訪れた見知らぬ文官に連れられ、マサムネの厩舎に行き…そして、黄皓が何か叫んでいたような気もするが…

その時、悠生は腹に回された人間の腕の存在に気が付いた。
この手は、見たことがある。
よく、覚えていたのだ。
筆を滑らせて、地図を書いてくれた。
後ろから悠生を抱き締めるようにして座っていたのは案の定、黄皓で…


「え…黄皓どの…!?」


ぐったりと力無く悠生にもたれ掛かっていた黄皓の胸は、真っ赤だった。
ずっと密着し、触れていた悠生の背中も真っ赤で、雨で流されてもおかしくないはずのそれは、衣服に大量に染み込んでいた、黄皓の血液。


(黄皓どの、怪我をしてる…?城に居たはずなのに、どうして!?)


青白い黄皓の顔に手を触させれ、だが振り返った反動でバランスを崩し、悠生は黄皓もろとも落馬してしまう。
べちゃ、と大地がぬかるんでいたためそれほど痛くはなかったものの、内側から、骨が軋むような嫌な痛みに襲われた。

寒さに震える手を必死に伸ばし、黄皓の首の動脈に触れてみる。
脈拍も弱く、微弱だが、彼が生きていることに一先ず安心した。


「黄皓どの!しっかりしてください!ダメだよ…死んだら…いやだ…!」


仰向けに横たわる黄皓をゆさゆさと揺すり、悠生は半ば涙声で叫んだ。
相変わらず酷い人だ、こんなにも呼んでいるのに目を開けてくれないのだから。

目を覆いたくなるような酷い傷だった。
どれほど出血したのか、時間が経ちすぎて分からなかったが、黄皓の腹の辺りは濃い赤に染まり、未だに血が溢れ続けていることを知らしめた。
いったい、誰に傷付けられたのだろう。
止血しようにも、今更意味が無い。
これでもかというぐらいに、血を出し尽くしてしまったのだ。


「…ん、ああ…ご無事で…」

「黄皓どの!?生きてた…!」


横たわっていた黄皓が、喉奥から苦しげな声を絞り出す。
それでも嬉しくて、思わず抱きついてしまったが、黄皓が痛みに呻いても雨音に遮られ、悠生の耳には届かなかった。

 

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