灰色に薄れ行く



「小生の姿を借り、悠久を自ら行動させようと工作していたようだが、悠久が頑なに拒んだため、このような手段に出たのだろう」

「いったい誰なのですか、悠生殿を狙う者とは…」

「…若き龍よ、人の子が仙界の荒事に深入りしてはならぬ」

「私が人間だから…関わるなと…?」


蜀には劉備を慕い集まった、優秀な人間が数多く存在する。
その中で、左慈があえて趙雲に接触を試みたのは、趙雲が悠生を守れるほどの男であると判断したからではないのか。
期待に応えることも出来ず、みすみす悠生を敵の手中に陥れたことを呆れられたのかもしれないが、何の説明も無く率直に、これ以上踏み込んではならないと言われてしまえば、悠生に繋がる手掛かりの全てが断たれてしまう。


「愛しいのだと…伝えていないのです。私には、悠生殿のために何が出来ましょう」

「悠久の望みを知っていよう?所在は小生が突き止めるゆえ…、そなたが心から悠久を想うならば、今は耐え、大徳の御子を支えることに専念せよ。さすれば、悠久を救いし道が示されるであろう」


立派に成長した阿斗がつくる国を、隣で見ていたい…、それが悠生の願いだった。
悠生は趙雲を信じ、寂しい想いをしながらも、阿斗との再会の時を待ちわびていたはずなのだ。
阿斗との距離が更に広がり、独りになった悠生はどれほど苦しんでいることか。

本来ならば、今すぐに悠生を捜索しに行きたいところだが、このような状況だからこそ、阿斗の傍を離れる訳にはいかなかった。
趙雲自身も、悠生の失踪に困惑し、己を見失いそうになっている。
周囲に裏切られ続けた阿斗の心は、慕っていた悠生を失うことで、今度こそ壊れてしまうかもしれない。
阿斗の信頼を守る…、それが、趙雲が果たすべき唯一の役目だと、左慈は言いたかったのだろう。


「私は、決して諦めません。悠生殿を想う気持ちは、いつもこの胸に…」

「それで良い。若き龍よ、この先何があっても、諦めてはならぬのだ」


左慈のその言葉は、これから降りかかる苦難を予期しているかのようだった。
それでも、趙雲の心は変わらない。
どのような困難が待ち受けていようとも…必ず悠生を連れ戻すと、趙雲は人知れず、悲痛とも言える決意を固めるのだった。



END

[ 142/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -