灰色に薄れ行く



(悠生殿…間に合ってくれ…!)


以前、左慈から、悠生を狙いし者がうろついていると忠告されていたのだ。
人知れずそれを危惧した諸葛亮が、黄忠に彼を預けたのかは定かではないが、結果的に強固な守りであったことは確かだ。

遠い未来に生き、過去を知る者が存在すると、それだけを情報として与えられたら、手に入れたくなる気持ちも分からないではないが…悠生が語らずにいたその事実を、突き止めることが出来るだろうか。
いとも簡単に外へ連れ出されてしまったことを考えると、敵は術師の類か…それに近い者だと想像出来る。
他人に成りすまして城内の人間を巧みな話術で操り、まともな護衛も付けていない今この時こそが、敵が作り上げた悠生を手に入れる絶好の機会なのだ。


(悠生殿が他の者に奪われるなど…考えたくもない…!)


趙雲は己を責めずにはいられなかった。
こうなる前に、助言をしに現れた左慈の言葉の意味を深く考えるべきだったのだと。

趙雲が左慈の顔を思い出した瞬間、前方に、光輝く仙人が姿を現した。
何処から…などと今更気にしなかったが、反射的に足を止めた趙雲を、左慈は神妙そうな顔で眺めている。


「ふむ…一足、遅かったようだ。若き龍よ、たった今、悠久の気配が此処成都から消失した」

「何ですって…!?では現在、悠生殿は何処に…」

「魂の行方を辿っておったが…、痕跡を消されてしまったようだ。相手が一枚上手であったのだ。彼の者に、これほどの力が残っていたとは…」


悠生は既に、成都城には居ない。
あの阿斗様の寵愛する子供が、敵の手に落ちてしまったと言うのだ。
その先に待っているものは、酷く悲しい現実であろう。
悠生がまた、独りで涙した時…傍で慰めることも出来ないではないか。

がむしゃらに走ったために息を乱した趙雲は、壁に手を付き呼吸を整えた。
左慈は極力自身の存在を知られないようにと、身を隠しながら悠生を見守っていたと思われるが、阻止するまでには至らなかったようだ。


 

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