灰色に薄れ行く




趙雲は遠方から、自分の名を呼ぶ男の声を聞き、足を止めた。
バタバタと廊下を駆ける音、城内であるというのに少しも遠慮が無い。


「…馬超殿?」

「良かった、貴殿を捜していたのだ」


先刻、諸葛亮の執務室に立ち寄った趙雲だったが、考えも纏まっておらず、長話をすることになってしまった。
いくら諸葛亮であっても、悠生から聞いた全てを話す訳にもいかない。
あの高名な軍師相手に何処まで隠しきれるかは分からないが、一つ言えることとして、異国の者であること…、それだけを伝えた。


「縁談の件なら、もう暫く待っていただきたいのですが…」

「問題無い。俺も雲緑も状況はよく分かっている。そうだ、悠生殿のことだ!」


悠生、の名を出され、趙雲はぴくりと反応した。
唾を飛ばし、馬超は興奮した様子で趙雲に詰め寄ってくる。

皆が知ることではあるが、馬超は悠生の馬術の師だ。
人との慣れ合いを好まない馬超も、悠生についてはたいそう可愛がっていたと、女官達が話しているのを聞いたことがあった。


「俺はいつものように厩舎に居たのだが、数人の文官が悠生殿を引き連れてやって来てな。変だと思ったのだ。何故、こんな夕刻に悠生殿とマサムネを連れ出す必要があるのかと」

「…馬超殿は、文官達に理由を尋ねられたのですか?」

「無論。諸葛亮殿の命で、悠生殿を白帝城へ護送するらしい。しかし俺は納得出来なかった。悠生殿にそのような処分をくだすなど、そもそも劉備殿が許されるはずが無かろう?」


…確かに、それでは矛盾が生じる。
趙雲は悠生と別れてから、つい先程まで諸葛亮と対面していたのだ。
可能性として、諸葛亮が趙雲から話を聞き、悠生を危険だと確定して文官に移送を命令したのだと考えても、このような短時間で指示し、実行出来るとは到底思えない。


「後から駆け付けた黄皓という文官も、俺と同じように異議を唱えていた。収束が付かないゆえに、彼等を引き止め、急ぎ貴殿を捜していたのだ」

「…分かりました。馬超殿は諸葛亮殿に確認を取ってください。私は厩舎に向かいます」

「承知した!」


馬超の前では冷静に振る舞って見せた趙雲だが、どうしようもない焦りと、一抹の不安が脳裏を駆け巡る。
趙雲は厩舎に向かって駆け出した。
まだ、其処にとどまっていることを祈りながら。

悠生を連れ出した文官達と共に黄皓の姿が目撃されていたようだが、彼は移送など決して許さないだろう。
孫夫人の使用人として、阿斗が傷付く様を何度も見てきた彼のことだ、悠生を罪人のように扱う者を黙って見過ごせるはずがない。


 

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