君の声だけで



友達なんて、別に欲しいとは思わなかった。
咲良ちゃんが居るし、一人でだって、暇は潰せる。
親しくもない他の誰かと居ても、楽しい事なんて何も無い(楽しさを見いだせない自分も悪いのだけど)。




緑色に、きらきらと煌めく石。
優しい手のひらが、悠生の髪を撫でる。
それはとても懐かしい、誰よりも大好きだった姉の手に似ていた。


「顔色が良くなったわね!気分はどう?」

「うん…大丈夫…、美雪さん、僕どのくらい寝てたの?」

「子龍様が訪ねられてから丸一日ね。お腹が減ったでしょう?今、何か用意するわ」


木窓の隙間から射し込む光が、既に昼過ぎであることを悠生に教える。
寝すぎたために、背中が痛い。
だがおかげで、熱はほとんど引いたようだ。
それなりにお腹も減っていて、悠生は美雪が運んできた野菜スープを二回もお代わりした(元気になったね、と喜ばれた)。

甲斐甲斐しく悠生の世話を焼く優しげな女性(姓は楊、字は美雪という)は、この小さな家に一人で暮らしている。
他に家族は居ないのかと疑問に思ったが、指に輝く小さな石を見て寂しげな表情をする美雪に気付いたとき、触れてはならないことなのだと悠生は理解した。

彼女はまだ年若く、下手すれば姉と同い年にも見える美雪を、悠生は複雑な瞳で見つめることがある。
美雪に咲良を重ねてしまうのだ。
これは仕方のないことだった。

毎晩のように、苦しい夢を見る。
うなされる悠生の手を握ってくれるのは、美雪だった。
姉と同じ優しさに包まれて、悠生は日に日に咲良に会えない寂しさを募らせていた。


「そうだ、届け物って何だったの?」


彼女の口から"子龍"という名を聞いてから、悠生はずっと気になっていたのだ。
熱のせいで幻覚を見たのかと思ったが、悠生が目撃したあの趙雲は、どうやら本物だったらしい。
勿論、悠生は彼と面識は無い。

つまり…阿斗が。
悠生に暴言を浴びせたことを反省した阿斗が、詫びの品でも持たせたのだろう、何となくそう受け止めていた。


「あ。お菓子だ」


美雪に渡された包みを開けば、少し形の崩れた焼き菓子が現れた。
阿斗が作ったのだろうか?
しかし、あの子供が料理をするとは到底思えない。
買ったものでなくとも、普通、このような食べかけを見舞いの品にするものだろうか。


(もしかしたら、星彩の手作りお菓子を自慢したかっただけだったりして)


悠生の予想はまさに的中していたのだが、別に、理由はどうでも良かった。
ただ、浮かれないように、ぬか喜びをしないように。
こんな小さなことで、心が揺らいでしまう。
友達なんかいらないと思っていたのに、今更、望んでしまいそうになった。

一口サイズの菓子は、口の中で瞬時にとろけてしまった。
甘くて、美味しい。
阿斗の幸せのおすそわけ、そういうことにしておこう。




 

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