灰色に薄れ行く



悠生はとても頭の良い子だ、どうして自分が黄忠の元へ連れてこられたか、気付いてしまったのだろう。
事件の直後と言うこともあり、それが直接的な理由であると察し、自身を責め…死を考えるまでに至った。
悠生を追いつめた人間を責めずにはいられないが、趙雲もその一人に数えられてもおかしくはないのだ。

それでも、悠生は誰かを恨む素振りを見せたりはしない。
悠生は、きっと…どれほど辛い想いをしても、この世界を恨むことは無いのだろう、そんな気がしたのだ。


「話を…しても良いですか?つまらないかもしれないけど…趙雲どのに聞いてほしいんです」

「それは…構わないが…」


上目遣いでちらちらと見られ、趙雲は狼狽していたのだが、悠生は了承を貰えたことに安心したらしい。
ふう、と息を吐いて…、悠生がこれまで抱えていた数々の言葉が紡がれたのだった。


「海を越えたところに小さな島国があります。たぶん、倭国…って呼ばれていると思います。今、この時代の倭国は、卑弥呼様っていう女王が国を治めているんです。あ、でもこの世界の女王様はまだ子供かもしれないんですけど…」


悠生が真剣な顔をして語り始めたのは、趙雲も興味を抱いたことが無かった、島国の歴史についてである。
何処で情報を得たのか、何故そのような話をするのか…趙雲には疑問ばかり生まれるが、次に続けられた言葉は、得られるはずがない、未来についての確かな情報だった。


「その…1800年後の倭国にまで、三国時代の英雄の活躍が語り継がれたんです。物語は永遠のものとなって…僕は趙雲どのに憧れて、そして劉ぜ……、阿斗のことも…」

「悠生殿…貴方はいったい…」

「…僕が、三国の結末を知った上で、阿斗と一緒に居るって言ったら…趙雲どのは僕を軽蔑しますか?嫌いに…なりますか…?」


悠生が抱えていた不安や孤独が、その問いに凝縮されている。
嫌われることを恐れながらも、切実に、必死になって訴えかけてくる瞳から、どうしても目を逸らせない。

悠生の正体を突き止めると、諸葛亮に啖呵を切ったも同然に飛び出してきた訳だが…自分から身の上を語ってくれるとは思わなかった。
彼は、未来の倭国に語り継がれた三国の物語を知り、この世界の終焉をも知る者。
つまり、悠生がこの世の者ではないというのは、あながち間違いではなかったのだ。
全てを知りうるなど危険極まり無い存在だが、悠生自身にその知識を悪用する気はない。


 

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