灰色に薄れ行く




恋を、していると。
良い歳をした大人が妻帯も持たず、ずっと年下の…少年に魅入られているなど、他人に指摘されたところで、素直に認められる事柄ではなかった。
兄弟や家族を想うような気持ちと何ら変わらないものであろうと、思い込んでいた。
愛しさや守りたいと思う気持ち、それは阿斗に抱く感情と同じである。

同じ…はずだったのだが、どうやら左慈の言葉通りだったらしいのだと、悠生にもっと触れたいと望む自分の心に気付いたとき、趙雲は戸惑うばかりだった。


「っ…趙雲どの…」


もぞもぞと、趙雲の胸に顔を埋めていた悠生は居心地が悪そうに動き出した。
温もりを手放すのは惜しいが、腕の力を緩めて解放してやると、悠生は目と頬を赤くし、俯いた。


「あの…ありがとうございました」

「それは…何の礼かな?」

「…分からない、けど、言いたかったんです」


そう呟きながら、何が恥ずかしいのか悠生はますます顔を赤らめ、再び瞳を潤ませる。
また泣き出されては困るので、趙雲は低い位置にある頭を撫でてやった。
指先に絡まる髪の毛がさらさらと流れる。
瞳を閉じて身を任せ…静かに呼吸をする悠生を、可愛らしいと思った。


「…五年…か」

「え?」

「いや、五年後の貴方は、さぞかし立派に成長していることだろうと」


不信感を抱かせないよう即座に言葉を続ければ、悠生はぎこちなくだが微笑んでくれる。
もしも悠生に手を出すつもりならば五年は待つように、と左慈が示した年数ではあるが…、この想いが知れたら、今度こそ、嫌われてしまうかもしれない。


「五年が過ぎたら…阿斗は元服して、立派な跡継ぎになっていると思います」

「ああ。私は老け込んでいるだろうな」

「趙雲どのは…格好いいままです。年を取っても、ずっと僕の憧れの人です。それは、変わりません」


悠生はとても真っ直ぐな目をして…さらりと、心の敏感な部分をくすぐるような言葉を口にする。
趙雲は動揺を隠し、どうにか平静を装った。
気を抜けば赤面してしまいそうなほどに、胸を打つものだったのだ。

そう、五年だ。
それだけの時間があれば、悠生がいくらひ弱な少年だとしても、背は伸び、立派な大人になるはずだ。
その時が来れば、想いを打ち明け、思うままに抱きしめても構わないだろう。

どん底と言っても過言ではない、この状況を打開するのが最優先だが、趙雲はどうやって悠生にこの想いを伝えるべきかと頭を悩ませた。
まさか、阿斗に黙って…という訳にはいかないので、どうにか許しを乞わなければならない。
…どう転んでも間違い無く苦労することとなるだろうと、趙雲は内心で嘆息するのだった。


「五年後も、一緒にいられたら良いな…」

「何を言う…当たり前だろう?」

「……、」


たったの、五年。
長いようで短い、年若い悠生にしてみれば、気が遠くなるほど長い年月なのかもしれない。


  

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