揺られて眠れ



「今は何も言えぬが…そなたが最も幸福に成りうる道を示そう。小生に出来ることは、そなたを導くことのみ」

「…ひとりで生きていくことも出来ないのに、誰にも信じてもらえなくて…誰を信じて良いのかも分からないなんて…そんなの…」


勝手に裏切られた想いをして、傷付いて…どうして、強く生きられないのだろう。
じわりと涙が滲んだ瞳に、左慈の姿は映らなかった。
ひくっ、と喉がなり、涙はぽろぽろとこぼれるが、歯を食いしばることでどうにか泣き叫ぶことだけは免れた。


(こんなにも…消えてしまいたいと思ったのは初めてだ)


阿斗の元へ戻ることが許されないと言うのならば、頑張る理由も、生きる意味だって無くなってしまう。
少しでも、阿斗の隣に並びたいと願っていたこれまでの自分が、愚かに思えてきた。

その時、こつん、とわざとらしい音が耳に届く。
俯いていた悠生に相手の顔は見えなかったが、黄忠ではなさそうだ。
彼ならまず、メソメソするなと一喝するだろう。
服の袖で涙を拭い、顔をあげたら、随分と懐かしさを感じる…、趙雲の顔が見えた。


「悠生殿?」

「か…噛んでません!今日は、何も悪いこと、していません…!」

「あ、ああ、分かっている」


それだけ告げるので精一杯で、悠生はせっかく様子を見に来てくれたらしい趙雲に礼を言うことも出来ない。
拭いきれなかった涙や、赤く腫れた目元を見て顔をしかめた趙雲だが、咎められることを恐れる悠生に、酷く優しげな声を投げかける。


「貴方は泣いてばかりだな…、だが、一人で泣かせることにならなくて、良かった」

「趙雲…どの…」


弱った心を包み込んでくれるような言葉は、悠生をさらに弱気にさせる。
誰かにすがりたいという欲求に勝っていたものは…、誰にも言えない、悲しい想い。

たとえば…リセットが出来ないならば、電源プラグを引っこ抜けば良いのだ。
そうすればバグは消えてくれる。
要らないものは消してしまえばいい。
人知れず無くなったって、誰も悲しまないのだから。


「阿斗の成長の邪魔になる僕は…此処に居たら、いけないのかもしれません」

「何を…、そのようなことは有り得ない。いったい、誰が貴方に?」

「だって僕は…バグだから…、きっと、美雪さんの代わりに死んだ方が良かったんです」


馬鹿なことを言うなと叱られるかと思ったが、趙雲は複雑そうな顔をし、立ち尽くしていた。
呆れているのかもしれない。
それとも、軽蔑されてしまっただろうか。
救われた命を自ら捨てようとする、それでは…嫌われてもおかしくない。


 

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