揺られて眠れ



「臥龍がそなたの正体を怪しんでいるようだ。城内で将兵らに傷を負わせたのも、そなたの仕業ではないかと…」

「は…?何それ!言いがかりじゃないか!」

「だが、果たして…数多の秘密を隠し持つそなたが、臥龍の疑念を背けることが出来うるだろうか?」


無理だ、と即答する。
臥龍…諸葛亮、理由は分からないが、悠生は彼に不信感を抱かれてしまったらしい。
諸葛亮が相手では、身の潔白を証明する前に潰されてしまいそうだ。
勿論、事件に関与した覚えは無いし、理不尽としか言いようがない。


(…もしかしたら…、僕が黄忠どののところに連れてこられたのは…阿斗から引き離すため?)


左慈の目がスッと細められる。
悠生が、核心に気が付いたと悟ったのだ。
先程から左慈が言おうとしていたのは、きっとこのこと。
諸葛亮に危険視された、疑わしい子供を阿斗の傍に置く訳にはいかないのだろう。
たとえ双方の意志ではなくても、大人が決めたことに、子供が逆らうことは出来ない。

黄忠が養子にと言ってくれたのは、将来のために居場所を与えるだけではなく…悠生の立場が悪くなっても、黄忠の保護下に置き、きちんと暮らしていけるようにとの配慮でもあったのだ。


「疑念を持たれるような僕は、阿斗の人生を狂わせることになる…そう思われているんですね。だから、左慈どのも諸葛亮どのも僕を追い出したいってことですか?」

「小生は、そなたの生きる理由を奪うつもりは無いのだ」

「そんなこと言ったって…なんにも残っていないじゃないですか!咲良ちゃんも美雪さんも、阿斗も…。黄忠どのだって…離れていったら、結局、僕はひとりぼっちだ…」


目を閉じて、耳を塞いでしまえば、完全なる闇の中に閉じ込められてしまう。
優しく声をかけてくれる誰かは居ない。
もう、光が射し込むことは無いのだと、恐れるばかりだった。

いくら前向きになって頑張ろうとしても、周りがそれを認めてくれなければ意味をなさない。
黄忠のことも…やっぱり、断った方が良いのだろうか。
自信など、持てるはずが無かったのだから。


「過去に、小生がそなたの前に姿を現したであろう?あれは紛い物…あれの発言を、鵜呑みにしてはならぬ」

「え!?過去って…いつ…?」

「そなたを懐柔しようという悪しき者が、上手く立ち回り、丸めこもうとしたようだ」


分からない。
いきなりそんなことを言われても…、あの時の話は嘘だから忘れなさい、だなんて、理解することも出来ない。
悪しき者が左慈に変装して現れた?
そう言われてしまったら、今此処に居る左慈を信じることだって出来ないではないか。
彼もまた、偽りの存在かもしれないと、疑わずにはいられない。


 

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