揺られて眠れ



「乱世が、恐ろしいかね」

「…左慈どの?」

「いかにも」


足音も無く、気配も無く…声がした方を向けば、ふわふわと宙に浮く道士・左慈が居た。
神出鬼没という言葉がよく似合う人物だ、今更驚きもしないが。


「本物の戦争が好きな人なんていないでしょう?皆だって、好きで武器を持っている訳じゃ無い…そうじゃなかったら…」

「ならばそなたは何故、世界を知ったのだ?」

「僕にとって、無双の世界は架空の物だったから。でも、夢が現実になってしまうなんて…」


コントローラーを握る手には、人の肌を貫いた感触は伝わってこない。
人を斬っている、頭の隅では理解していても、やはりゲームはゲームでしかない。
あれは、人間ではなかった。
悠生にとっては、RPGのモンスターと変わりなかったのだ。


「怪我をしたら、痛いんだよ。苦しいんだ」


迷い込んだ悠生を受け入れてくれた…あの長閑な村が襲撃され、美雪が眠るように息を引き取る様を、目の当たりにした。
命の灯火が、いとも簡単に消え行く。
血の色やにおい、それよりも、触れた肌が冷たくなっていくのが、怖かった。


「決意は、変わらぬか?恐怖に怯えながらも、そなたは蜀と運命を共にするつもりかね?」

「…左慈どのは、劉備さまに期待しているんですよね?だったら、阿斗のこともちゃんと見てあげてほしいです。この世界の阿斗は、大丈夫だと思うから…」

「何を根拠に大丈夫と言う?そなたは御子の心に触れ、解き放った。確かに…御子はそなたが望むならば、大徳から受け継いだ力を発揮し、良き君主となるであろう」


だが、心の支えを失いし時、御子は蜀を捨て、暗愚への道を辿ることとなる。
左慈は言いにくそうに言葉尻を弱めた。

つまり、史実に反して星彩が関平を選んだり、悠生が事故や病気で先に死んだら、阿斗はやる気を失い、結果的に歴史通りの暗君になってしまうということだ。


「僕は…いちゃ駄目って阿斗に言われるまでは、傍に居るつもりです」

「そなたは脆い。二人の絆を引き裂こうとする者に対抗する術も無い。成長する時間を奪われてしまった今、そなたが想い描くような未来は決して拝めないのだ」

「対抗…?奪われたって、どういうことですか?」


悠生の望む未来…、劉禅が君主として立派な男になっていれば、それだけで良い。
否定的な意見ばかり突きつけられて流石にうんざりしてきたところだが、意味が分からずに聞き返すと、左慈は渋りながら、白い髭を撫でている。


 

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