揺られて眠れ



矢を衝撃波のように放ったり、雨のように降らせたり…それはゲームだから出来ることなのだ。
現実的に考えて、素早さは求められない。
ゆっくりでも、正確に、狙った場所にきちんと命中させる。


「ううむ…下半身を鍛えれば、使い物にならんこともなさそうじゃな」

「下半身を、鍛える…?」


軽く息を乱した悠生は、黄忠のアドバイスの意味がよく分からず、首を傾げた。

黄忠に世話になってから数日が過ぎ、毎日弓道場で弓の指南を受けていた悠生は、少しずつだが上達の兆しを見せている。
射程距離を狭くし、的を以前の半分の位置まで近付けた。
これを弓道と呼べるかは疑問だが、そうするとしっかり真ん中に命中するのだ。
やはり、体力的な問題なのだろうか。
その壁を乗り越えるには、体を鍛えるしかないのだが…


「しっかりと踏ん張ることが出来なければ、おぬしは衝撃に耐えられず転倒するじゃろ」

「的に当てる練習をしているだけじゃ、ダメなんですね。とにかく…体力を…」


定位置に置かれた的に矢を命中させる、それが、悠生の一番の目標ではあるが、やはり持久力が無いというのは致命的な問題なのだ。
スクワットでもしようか、と筋トレ方法を思案していた悠生だが、ござの上に座っていた黄忠が急に立ち上がり、名を呼ぶものだから、弓を構えていた悠生は反射的に振り返った。


「先日、わしの養子にと勧めたが…冗談では無いぞ。おぬし、本心ではどう思っておる」


姓名を答えられない悠生を見かね、機転をきかせた黄忠は助け船を出してくれた。
だが、あの発言は一時の気の迷いではない。
彼は心から、悠生を養子にと望んでいるのだ。


「黄忠どのに、僕の居場所を作ってもらえたことが、凄く嬉しいです。だけど僕は…自信がありません」

「自信なんぞ、経験を積んで自ずと得られるものじゃ。わしは…おぬしを気に入っておる。いつの間にか、おぬしの成長を、見ていたいと思うようになったんじゃ」


まるで、父が子を見るような優しい目をして、黄忠は静かに微笑んだ。
唇を結んで俯く悠生の頭をぽんと撫でて、黄忠の足音は遠ざかっていく。

五虎将軍・黄忠の養子ともなれば、必然的に、阿斗との身分の差がぐっと縮まるだろう。
だが…、"黄"の姓を名乗るだけの実力が、今の悠生には無いのだ。
おこがましいし…そして、滑稽ではないか。


(それでも…黄忠どのは…僕を気に入ってくれているんだ。頑張ればいつか…皆に認めてもらえるかな…)


矢を掴んだ悠生は、きらりと輝く刃の先端をじっと見詰めた。
一度、練習中に、誤って指先でかすったら、多量の血が出てしまった。
集中していないからだと黄忠に叱られた。
それぐらい鋭く、殺傷能力がある。
本当に、人の命を奪うことが出来るのだ。


 

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