己が家を嫌う



「わしらと同じ"黄"じゃ。悠生殿はわしの遠戚の子でな、いずれわしの養子になる予定じゃからのう!此処で預かるのは自然な流れだった訳じゃな」


うんうんと一人で納得し、黄忠はぽかんとする黄皓と悠生を見て、盛大に笑い飛ばした。
姓名が、黄…そして遠戚の黄忠の養子となると言う、全く身に覚えの無い話である。
そのうち黄皓が「ああ」と頷き、どこか嬉しそうに悠生の肩を叩いた。


「では悠生殿はいずれ黄家を継がれるのですね。当主ともなれば、貴方は阿斗様の隣に並ぶに相応しい存在となられる」

「え、ええっ!?」

「そうじゃ。ゆえに弓の扱いは覚えてもらわんとのう。いずれは初陣を果たしてもらわねば。じゃが学問も怠ってはならんぞ」


何やら大事になっているようだが、混乱の極みにある悠生はどう答えて良いかが分からない。
黄家の跡継ぎなど、スケールが大きすぎる。
しっかり勉学に励むよう諭した黄忠は、機嫌良く笑いながら部屋を出て行った。


「…黄忠殿は悠生殿を困らせないように、口添えをしてくださったのでしょう?それにしては、軽々と養子にするなどと…いや、とても器の大きなお方です」

「黄皓どの、僕は…違うんです…僕の本当の姓は…」

「これ以上は聞きませんよ。貴方のことを知りたい方も少なからず存在するようですが、私にはどうでも良いことです。そもそも、阿斗様を慕われる貴方を、私の敵とは思いませんから」


黄皓の言葉が、悠生の胸を強く打つ。
共に過ごすうちに、僅かながら情が生まれたということだろうか…、
阿斗と仲の良い悠生に嫉妬し、乱暴した黄皓とはまるで別人のようだ。

しかし二人は何故、ここまで優しくしてくれるのだろうか。
黄忠は姓名を答えられなかった悠生を自分の養子と仕立てあげることで、黄皓を騙し切れたと思っている。
黄皓はそんな黄忠の話に合わせ、騙されたふりをし、更には悠生が隠し事をしていることを知っていて尚、見逃してくれたのだ。


「黄忠殿は若くして嫡男を亡くされ、それ以降は養子も取らず、黄家は断絶かと噂されていたほどです。悠生殿を養子にと望んだのは…本当に、貴方のことを気に入られているからでしょうね」

「僕なんかを…どうして…?」

「私は存じませんが、良い兆候ではありませんか。貴方が出世されれば、阿斗様が喜ばれる」


その通りではあるのだが、背負わなければならないことが一気に増えすぎて、息が苦しくなってくる。
すると黄皓はすぐに背を撫でてくれて、浮かぶ笑みはやはり優しげであった。

…黄忠が、どんな理由があれ…悠生殿を弟子に、養子に、跡継ぎに選んでくれたと言うのならば、少しでもその気持ちに応えられたらと思う。
悠生が心の中を支配する孤独に打ち勝ち、立派に成長した姿を見せることが出来れば、阿斗の傍に戻れるかもしれないし、黄忠の中に根付く寂しさをも…紛らわせることが、出来るかもしれないから。



END

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