己が家を嫌う
(僕が強くなれば…阿斗のところに帰れる…誰かに守られなくても良いぐらい、強くなれば)
だが、努力をすることは苦手なのである。
成果が出ないまま、阿斗に会いたい…と、そればかりを考えていた。
勉強をして立派な文官になれば、自ずと阿斗の隣に並ぶことを認められると思っていたが、甘い考えだったのかもしれない。
ただの文官では…価値が無い。
弓道の心得がある文官の方が、何倍も役に立つだろう。
「何をしていらっしゃるのですか、悠生殿。だらしがないですね」
突然、呆れたような声が降ってきて、人が近付く気配にもその足音にも気が付かなかった悠生は驚いて起き上がる。
すると其処には、少し困ったような顔をした黄皓が立っていた。
何故、彼が黄忠の邸に?
疑問を持って黄皓を見つめたら、彼はゆっくりと弓道場に足を踏み入れる。
「実は趙雲殿に、悠生殿の様子を見てくるように頼まれましてね」
「趙雲どのが…?」
「本当は趙雲殿自ら訪ねたいとおっしゃっていましたが、どうも忙しいようでして、代わりに私が」
阿斗と離れて暮らすようになった悠生が、不自由をしていないか…やはり趙雲は、気にかけていてくれたようだ。
きっと、悠生が早く阿斗の元へ戻れるよう、尽力してくれていることだろう。
趙雲の遣いとして顔を出した黄皓は、血の滲んだ悠生の手のひらを興味深そうに見つめている。
「私が邸に入る許可を頂けたのは、貴方に引き続き学問を教えるためでもありましたが…黄忠殿に、弓を習われているのですか?」
「はい。凄く難しくて…なかなか上手く出来ませんけど…」
「悠生殿の頭が良いことはよく知っていますが…、万が一貴方が戦場に出ることとなったら、阿斗様が嘆かれるでしょう。無茶はなさらず、学問に専念されてはどうですか?」
悠生が傷付くことがあっては、阿斗が悲しむからやめてほしいと言っているのだ。
黄皓が阿斗を想ってくれることは嬉しいが、彼は悠生自身の心配をしている訳ではない。
複雑な気持ちになるが、黄皓の気持ちは理解しているため、さらりと流すことにした。
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