悲嘆の雲



悠生はいくら己の立場が悪くなろうと、どんな酷い言葉で罵倒されようと…、阿斗が真っ当な道を進むためなら、自分が苦しむことになろうと耐えようとするのだろう。
たとえば諸葛亮から、阿斗を惑わす存在になるから身を引けと言われたら、悠生は何も言わずに姿を消してしまう気がしてならない。
あの子供は、他人に迷惑をかけることを極端に恐れているのだ。
自身を責め、心を傷だらけにして、それでもまず第一に阿斗のことを考えている…優しい子だ。

阿斗へ純粋な目を向ける悠生が、蜀の脅威になどなるものか。
確かに、彼が蜀を裏切れば、阿斗の負う傷は計り知れない。
だが、悠生に限ってそのようなことは有り得ないと、趙雲には確信に近い自信があった。
どのような状況に陥っていても、阿斗を裏切るぐらいならば、悠生は独り果てる道を選ぶはずだと…信じている。


「悠生殿の処遇については、趙雲殿の報告があり次第、決定したいと思います」

「…承知しました。良い返事を頂けるよう、尽力いたします」


趙雲は瞬きもせずに、真正面から諸葛亮を見詰めた。
これは、重大な任務であろう。
悠生が潔白であることを証明させなければ、彼は城を追われるかもしれない。
このまま放り出したら、悠生は乱世の渦に呑まれ消えてしまう。


「子龍……」

「お任せください、阿斗様。必ずや、悠生殿を取り戻してみせましょう」

「ああ…。頼む…!」


一国を治めることになる者が、簡単に涙を見せてはいけない、だから阿斗は決して泣くまいと、歯を食いしばる。
まだ、阿斗は大人を、趙雲を信頼しているのだ。
全てが手遅れになってしまえば、諸葛亮にさえ、阿斗の心を開く策は無いだろう。

大きな賭けに出て、悠生を城へ連れ帰ることを許したのは、趙雲自身だ。
その落とし前は取らなくてはならない。
阿斗の心と悠生の居場所を守れるかどうか、全ては趙雲に託されていた。
何としても、失う訳にはいかないのだ。



END

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