意地悪な隔たり



「…黄忠どの…此処に居る間、僕に弓を教えてください。明日からも、頑張って練習します。だから…」

「おお、良い心掛けじゃな!なら、わしの弟子にしてやろう!」


弟子、と言う言葉に悠生はきょとんとするが(これ以上に厳しくされては先に心が折れる)、黄忠が豪快に笑うので、返事も出来なかった。
それでも、黄忠が歩み寄ってくれたから、頑張ろうと思えた。
せめて矢が的に当たるまでは…続けたい。
そうすれば、いつか必ず、阿斗のところへ帰ることが出来る気がしたから。




「あ、あの…月英どの」


部屋に戻り、悠生の怪我の手当をし終えた月英は、仕事があるので…と丁寧に別れの挨拶をした。
悠生はそんな彼女を呼び止める。
一つ、聞いておきたいことがあったのだ。


「趙雲どのの縁談って…ちゃんと決まりましたか?」

「いえ…、このようなことになってしまったので、後日改めて話をなさるとのことです。趙雲殿も、今回の件について、お気になされているようですね」

「そう、ですか…」


なんとも形容しがたい、複雑な気分だった。
縁談が保留となったと知り、安心している自分が居て、なんて心が狭いのだろうと思う。
悠生の心は、趙雲に対しては曖昧なのだ。

家族以外の人間は、基本的に嫌いだった。
だが今は、悠生の周りには、優しい人がたくさん居る。
好きな人が増えたのは喜ばしいことだ。

だが、趙雲はどうだろう。
英雄として語られてきた趙雲に、悠生はずっと憧れていた。
口には出来ないけれど、本当に大好きなのに…、彼の幸せを望めないとはどういうことなのか。


「悠生殿は、趙雲殿に妻が出来るのが、お嫌なのですか?」

「…嫌、なのかもしれないです。奥方さまが出来たら、趙雲どのにはもう会えなくなっちゃいそうで…。でも、趙雲どのには言えません。こんなこと言って…子供だって思われる方が嫌です」

「趙雲殿はお喜びになられると思いますよ?悠生殿にこれほど想われているのですから…」


どうして…、趙雲のことを考えると、息が苦しくなってしまうのだろう。
じっとその理由を考えていたら、柔和に微笑む月英に、悠生は笑顔を返すことが出来なかった。



END

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