戦士の予感



何度か薬を服用したが、身体が弱っているためか効果は表れず、一向に熱が引かないのだという。
この様子では、彼の苦しみは長引くばかりだろう。
美雪は趙雲に礼と挨拶をすると、悠生の額に流れる汗を濡れた手拭いでぬぐった。
これ以上、自分が居ても迷惑になるだけだと判断し、趙雲は静かに戸を閉めた。


「……、」


村医者では、手に負えないのだろう。
だが、名医に診断を頼むほど、貧しい生活を送る彼らに払える金は無い。
そもそも、生まれつき体が弱いのならば、どれほど手を尽くしたとしても、完治することは無いのだ。

全ての民を幸せに…、などと、いくら努力し、国のために尽くしたところで、やはり遠い夢の話なのだろうか。


「さあ、子龍よ、悠生は何と言っていた?教えよ!」


…わがまま王子、まさに、その通りだと思う。
阿斗は趙雲の言葉を待ち、わくわくと期待に胸を躍らせているのだ。
悠生から受け取った伝言をそのまま、阿斗に伝えた。
「また、遊ぼう」と、どことなく自信なさげに呟いた、悠生からの誘いの言葉をも。
趙雲からの報告を聞き終えた阿斗は、満足したように微笑んだ。


「漸く、私のことを認めたのだな!」

「失礼ですが、阿斗様と悠生殿はどのようなご関係で?」

「あやつは私の…そうだな、友と呼んでやろう。私が阿斗だと知っていても、悠生は真っ直ぐぶつかってくれた…本当に、変わった子だ」


友達…、いくらねだっても、願っても、手に入らなかったもの。
それはきっと、阿斗が最も欲しがっていたものである。
悠生のことを口にする阿斗は、邸でも厄介者扱いされていたうつけには見えなかったのだ。
半刻も大人しく椅子に座っていられない、他人の迷惑など省みず無茶苦茶に暴れるあの阿斗様とは思えない、穏やかな表情をしていた。
とても愛おしそうに、他人のことを想って微笑んでいる。

今まではまだ、目には見えなかったが…阿斗にも劉備のような、慈愛の精神が備わっているのだろう。
趙雲が知る限りでは、星彩だけに与えられる特別なものだったはず。
その美しい心を全ての民に向ける、今の阿斗には難しいことかもしれない。
だが、悠生の存在が近くにあれば…二人に、蜀の未来を託すことが出来たなら、もしかしたら。


(阿斗様と蜀の未来が、輝かしい物になるかもしれない!)


趙雲の中に、微かな希望が生まれた。
それはまだ、ほんの小さな輝きなのだが、確かに存在するものだ。
子守役として子供達の成長を見守っていこう、と趙雲は密かに決意するのだった。




END

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