意地悪な隔たり



「月英どの…、僕に、用事ですか?」

「ええ。孔明様から、悠生殿の様子を窺ってくるようにと」

「……、」


笑みを携えたまま、告げられた言葉に、一気に心が冷えきってしまった。
月英は母ではなく、諸葛亮の妻なのだ。
…この世界の諸葛亮は、何故か、好きになれなかった。
たった一度、顔を合わせただけなのに、悠生は彼にいつしか苦手意識を抱いていた。
全てを見透かそうとする、諸葛亮の冷たい瞳が…怖かったのだ。


「僕はいつ…阿斗のところに戻れますか?」

「申し訳ありませんが、私には分かりかねます。お寂しいでしょう、ですが悠生殿の安全を考えてのことなのです。ご理解をいただけますか?」

「なんで…全部決められちゃうんですか?黄忠どのみたいに弓が上手だったら…僕は阿斗の傍に居られたんですか…?」


自分で言っておきながら、泣きそうになる。
月英も困ったように眉を寄せていた。

たとえば、黄忠に負けないほどの弓の名手であったなら、阿斗を守るために、傍に居ることを許されたのだろうか。
ずっと遠くにある的に矢が命中していれば、すぐにでも阿斗の元へ飛んで行けたのだろうか。
…どうして、力が無いのだろう。
強くなりたいと願っても、悠生の願いは届かない。


「悠生殿は阿斗様のために、矢を射続けたのですね。このように、手を傷だらけにしてまで…」

「僕…阿斗のために、頑張ったんです。でも、やっぱり…頑張ったって、全然上手く出来ない…!」


悔しさと情けなさと。
それと、拭いきれない寂しい気持ち。
阿斗に好かれていない自分には、何の価値もないのだと、悠生は思っている。

悠生は一粒だけ、涙を流した。
歯を食いしばるのをやめて、泣き喚いてしまえば、本当にお子様扱いされてしまう。


「軽々しく涙を見せるものではないぞ!」

「黄忠殿!今、そのようなことをおっしゃられなくても…」

「叱っているのではない!これだから若者は…。悠生殿の努力は、合格点以上じゃよ」


思いも寄らぬ言葉を受け、悠生は潤んだ瞳を丸くして驚く。
…認めて、もらえたのだろうか?
黄忠の言葉を疑う訳ではないのだが、悠生の弓の腕前は最悪である。

彼が認めたのは、阿斗への想いの強さだった。
悠生が、心から阿斗を慕っていることを…、黄忠は理解してくれたらしい。


 

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