意地悪な隔たり



(っ…くそぉ…!!)


自分と、的との距離。
数十メートルのはずなのに、もっと遠く感じる。
黄皓に書いてもらった三国の地図、あの地図上の成都と樊城とを結ぶ線は、あんなにも短かったのに。


(今の、阿斗と僕の距離…か…)


何がきっかけで、阿斗と引き離されてしまうか分からない。
悪いことなんかしていなくても、望んでいなくても、思い通りにはならないのだ。

力が、無いから。
阿斗の手を握って離さない、たったそれだけの力も、悠生は持ち合わせていない。
子供だから、大人にはかなわないと…言い訳をしてしまえばそれまでなのだが。

用意された矢が無くなるまでは頑張ろう、と思ったが、いつまで経っても数は減らない。
もう何百本も矢を射った気でいたが、実はまだ数十本程度で…、しかし悠生の得た疲労感は相当なものだった。


「いっ…」


ぴりっ、と痛んだのは…心であろうか。
非力な自分を嘆くばかりである。
どう頑張っても悠生には、矢を遠くまで飛ばすことが出来なかったのだ。


「もう良い、弓を置け」

「っ…いやだ!」

「年寄りの言うことは聞くもんじゃ」


見放されることを恐れ、いやいやと抵抗したが、いとも簡単に弓を取り上げられてしまった。
確かに弱音ばかり吐いてはいたが、無力な子供だと一方的に決めつけられてしまうのは、凄く悔しい。


「客じゃ、客!」

「え?僕に…お客さん?」


見込みが無いと呆れられて中断させられた訳ではなかったのだ。
しかし、黄忠の元に居る悠生をわざわざ訪ねてくる人物など…、想像も付かない。
入り口付近に立っていたらしい客人、…月英だったのだが、彼女はにっこりと微笑んで、悠生の前に立った。


「月英どの…?」

「手をお見せください。……ああ、やはり…マメが潰れていますね」

「わ…、気付かなかったです…」


手のひらを見てみたら、指摘されたとおり、小さなマメがいくつも出来ていて、所々血が滲んでいる。
感覚が麻痺していたのか、悠生は全く気にせず弓を引いていたから…黄忠も止めたかったのかもしれない。

痛かったでしょう、と月英は優しい手つきで悠生の手を撫でた。
ただそれだけで、どきりとしてしまう。
くすぐったい訳ではないのだが、気恥ずかしい言うか…反応するように顔が熱くなってしまい、悠生は狼狽える。


(月英どのは…お母さんみたいだ…)


此方の世界に来てから、悠生は"母"という存在を求めたことが無い。
あえて言うならば美雪に甘えていた自分は紛れも無いお子様であったのだろうが、彼女に母性を求めているつもりはなかった。
だが、月英が纏う雰囲気は紛れもなく母のもので、無性に懐かしさを感じてしまうのだ。
頬を染める悠生に気が付いたのか、黄忠がにやにやとしていたので、慌てた悠生は「大丈夫です」と言って月英から離れた。
からかわれたら反論のしようがない。



 

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