意地悪な隔たり



(でも、弓道場でそれを使ったら、的が粉々になっちゃいそうだ…)


ドキドキしながら黄忠を見つめていた悠生だが、彼は愛用の弓を置くと、次に小さな弓を持ってきた。
しかもそれを突きつけるようにして差し出され、彼の意図を察した悠生は顔を青くして、ぶんぶんと首を横に振った。


「む、無理です!弓なんて触ったこともないし、運動神経も悪いし…」

「すぐに弱音を吐く者は男では無いぞ!何事も経験じゃ!」

「でも…」


弱気な言葉の羅列が気に入らなかったらしい黄忠は、半ば無理矢理に弓の扱い方や構え方を教えると、悠生を厳しい目で見下ろすのだ。
どうしてこんなことになったのかと…、内心ぐちぐち言いながらも、弓を構えた悠生は黄忠に気付かれないように、小さく溜め息を漏らす。
知識を巡らせ頭を働かす学問や兵法とは異なり、弓道など…悠生には欠片ほども自信が無かった。
丁寧に説明されたところで、頭では理解出来るのだが、実践するとなると、話が違ってくる。


(こんなの、シューティングゲームみたいにうまくいかないって…)


ぎりぎり、と弓が唸っている。
矢の先端の刃がきらりと輝き、悠生は訳も分からないまま、思い切って弓を引いた。
ぎゅん!と鋭い音が響く。
踏ん張りきれず、反動でひっくり返った悠生だが、放った矢の行方を探すため、きょろきょろと辺りを見渡した。


「あれ…?」

「上じゃよ、小童」

「……、」


言われて見てみれば、天井に、先程放った矢が突き刺さっていた。
あまりものコントロールの悪さに落ち込んでしまいそうだが、最初から、こうなることは分かりきっていたのに。


「何じゃ、もう諦めるのか?」

「だって…無理なものは無理だし…」

「情けないのう!そのような軟弱者、御子の元へ帰す訳にはいかんぞ」


…理不尽だと思うのだ。
結果が残せなくとも、苦手を克服しようと努力することが大事なのだと、学校の先生には教えられた。
人には向き不向きがあるが、悠生にとって、スポーツ能力を必要とする分野は特に…向いていない。
そもそも、次元が違うのだ。
誰もが才能や力を持っている訳ではないのに、的に矢が命中するまで阿斗に会わせてもらえないなんて、その条件は残酷すぎるのではないか。


(黄忠どのには関係無いんだから…、阿斗との繋がりを断つ権利は無いじゃないか)


阿斗自身に告げられたならば、それは…仕方がないと思えるけれど。
小馬鹿にするような笑みを浮かべる黄忠を見上げた悠生は、無性に悔しくなって…、弱々しくも挑むようにして睨み付ける。

悠生は床に放り出した弓と矢を手にし、半ば投げやりになって弓を引いた。
二本目の矢は、へろへろと力無く落下してしまう。
三本目は勢い良く地面に突き刺さり、四本目は少しは飛んでくれたが、腕に伝わった振動が大きすぎて、骨にまで耐え難い痛みを感じ、弓を持っていられなかった。


 

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