最初の喪失
「諸葛亮殿は自らの選んだ対処法が、悠生殿の立場を悪くしていることを承知で?」
「…丞相は、本気で悠生殿が事件を起こしたとは思っていないでしょう。何か考えがあり、隔離に至ったのだと…私は、思います」
「現在、悠生殿は何処に居るのだ?」
諸葛亮の意図を知るためには、裏の裏を読まなければならない。
聡明な軍師殿の脳内では早くも結論が出ていて、素直に、疑わしき者を劉備の嫡子から遠ざけたかったという可能性。
もしくは、周囲から浴びせられる嫌悪の視線から守るため、悠生をすぐに保護したのかもしれない。
あの策士ならば、どちらも考えうる。
「これは機密事項ですが…黄忠殿の元へ。阿斗様には決して気付かれぬよう、と丞相が仰られていました」
「黄忠殿?」
黄忠は五虎将軍の一人で、戦場をよく知った老将である。
諸葛亮の信頼が置ける人間であることは確かだが、悠生の保護を黄忠が任されたのは、これまで一度も、悠生と接触する機会が無かったからだろう。
親しい者が傍に居ては、"監視"の意味も無くなってしまう。
(もしや…、今回の件も、左慈殿の姿を借りたという偽者が…?)
己の野望のために、悠生を狙った者。
変化の能力を自在に操れる人物が、悠生を陥れようとした可能性も否定出来ない。
だが、事件を起こせば牢に幽閉されるものと、一般的には考えるはずだ。
悠生は阿斗のお気に入りとして少々特殊な扱いを受けており、牢に入れられることはまず有り得ない。
黄忠の元にあれば、一先ずは、悠生の安全は確保されるだろう。
「趙雲殿には、阿斗様のご様子を窺いに行って頂きたいのですが…」
「ああ、私も気になっていたよ。姜維殿、また何か分かったら伝えてくれ」
趙雲が最初にすべきことは…、悠生と引き離され、理不尽さを訴える阿斗を慰めにいくことであった。
またもや、大事な人を奪われたと嘆き苦しみ、阿斗は今度こそ、大人を信じなくなってしまうかもしれないのだ。
悠生のことは気にかかるが、阿斗の深く傷付いた心を、そのままにしてはおけなかった。
END
[ 118/417 ][←] [→]
[戻]
[栞を挟む]