最初の喪失




騒ぎを聞きつけた趙雲は、急ぎ現場まで駆け付けた。
遺体は既に別室に運ばれていたようだが、壁や床にまでこびり付いた血液が、此処で起きた殺戮の凄まじさを物語っている。


「趙雲殿。お待ちしておりました」

「姜維殿か…、すまない、少々混乱している。悠生殿が、隔離されたというのは、事実なのだろうか…?」


何かの間違いであってほしいと願っていたが、姜維の辛そうな表情を目の当たりにし、趙雲は愕然とした。

趙雲は馬超の邸に赴き、馬雲緑と顔を合わせていた。
縁談など…、ありがたい話ではあるが、未熟者の自分には早すぎる、と度々断ってきたが、今回応えようと決めたのは、少しでも悠生への邪念を忘れられたら…と思ったからである。

さすがは錦と名高い馬超の妹、美しい雲緑は礼儀正しく、しかも武芸も嗜むという…自分には過ぎたる女性であった。
しかし、雲緑と話をしていても、ふと考えてしまうのは、やはり悠生のことで…邪念など、忘れられそうもなかった。


(自ら手を汚すことを知らない子供に…人を殺められる訳が無いだろう…!!)


血相を変え、馬超の邸に飛び込んで来たのは悠生の学問の師である黄皓だった。
そして、趙雲はこの騒ぎを知ることになる。
趙雲が阿斗の傍を離れた間に事件が発生したため、事が大きくなっているらしいのだ。

見張りの者が駆け付けた時、阿斗が悠生を抱き締め呆然とする中で、数人の将兵が刺殺されていたという。
凶器と思われる血にまみれた刀も、すぐ近くに置き去りにされており、既に犯人は逃亡したかに思われたのだが。


「私も騒ぎを聞き、丞相と現場に赴いたのですが…、最後まで意識のあった男が告げたのです。我々を襲ったのは、悠生殿であると…」

「まさか、何故そのようなことに…」

「ええ。信じがたい話ですが、私もこの耳で聞いてしまいました」


悠生を犯人扱いされ、引き離されそうになった阿斗は悲鳴を上げるように反論した。
ずっと一緒に居たのだ、それに、血を見ただけで失神するような子供に、このような残酷な行いが出来るはずはない、と。

劉備の懐刀である諸葛亮の言葉は絶対だ。
阿斗が騒ぎ喚こうとも、諸葛亮は悠生を一時的に監視下に置くことを指示し、強制的に阿斗の傍から引き離してしまった。

思い込み、と言われれば否定は出来ない。
戦場とは無縁、そのような非道な行いが出来るような人間では無いと決めつけてしまえば、真相解明は困難になる。
不幸なのは、今日に限って護衛が付いていなかったことだ。
阿斗の証言が真実であろうとも、周囲に疑念を抱かれた以上、疑いが晴れるまで、傍へ置くわけにはいかない。


 

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