夜の道連れ



「何を悩んでいるのかと思ったが…、クソ真面目なおめえも、やっぱり男ってことだな。むしろ、安心したぜ」

「意味が、分かりかねるのだが…」

「趙雲!鈍感過ぎるのも考え物だぜ?考えてもみろ、好きな奴に手を出して何が悪いってんだ?敵陣に突っ込む勢いで奪っちまえよ!」


あっけらかんと、張飛のさも当然という言葉に、趙雲は頭に石をぶつけられたような、激しい衝撃を受けた。

誰が、誰を好きだと?
まさか…、あの、阿斗様の寵児を?
答えを求め張飛を見たが、さすがの彼もそこまでは知り得ないだろう。


「おめえの心を射止めた女ってのは、さぞかし良い女なんだろうなぁ」

「い、いや…私は…!」

「まあな、こうしてやけ酒に至ったってことは、もう取り返しがつかないってか…ふられちまったんだろ?よし、今日はとことん付き合ってやるぜ!」


傷口に塩を塗り込むような発言に、趙雲はがっくりと肩を落とした。
彼に悪気は無いから質が悪い。
身分高き女性を攫って妻にしたという張飛の心を、趙雲が理解するには難しかった。
だが、張飛のおかげで、幾分か気持ちに余裕が出来たのは事実である。


(今こそ、向き合わなくてはならないのだな…私にも分からない、私の心に…)


趙雲は最後の酒を口にし、その味を確かめた。
甘辛く、滑らかな舌触りだった。

…好いているから、口づけたのか?
あの時…涙する悠生を目の前にし、冷静になってものを考える余裕など無かったはずだ。
ならば、無礼を承知で、阿斗にも同じことを出来ただろうか。
…絶対に、思いとどまるはずである。

趙雲が何かしら、悠生に対して特別な情を抱いていることは、明らかなことだった。



程良く酔った張飛が、よろよろと部屋を後にし、自室に一人となった趙雲は、熱を持て余しながら深く溜息を漏らした。
酒が入ったお陰で、すぐにでも眠れるかと思ったが…、やけに頭は冴えている。
しかし、ふと窓の方を見て、残っていた眠気が一気に飛んだ。
内鍵をかけた部屋に、自分以外の人間が居るはずは無い…つまり、其処に見えた人影は侵入者であると、趙雲は深く考える間もなく、懐に忍ばせた護身用の短刀に手を伸ばした。

だが、いくら趙雲が殺気を飛ばそうとも、窓際に立つ白髪の老人は顔色も変えず、真っ直ぐに趙雲を見ている。
そこで、趙雲は悠生の言葉を思い出した。
"白髪のおじいさんと話をしていた"と…、そう言っていたが、もしやこの老人が渦中の人物なのではないか?


「大徳の若き龍よ。小生は左慈と申す」

「左慈殿…?その名は以前、聞いたことが…、確か、道士であると」

「いかにも。このような時間に訪ねたが、許せ。小生が蜀に滞在していることは極秘ゆえ…」


左慈は世に名の知られた人物で、趙雲も度々信じられないような噂を耳にしていた。
目の前に佇む老人からは、ただならぬ存在感…生命力が感じられる。
高貴なる者であることは、確かなようだ。


 

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