夜の道連れ




…何故、独りで抱え込もうとする?
こんなにも心配しているのに、理解してもらえないことに苛立ったのは、心が苦しかったからだ。

涙と血の味がする、口付けをした。
それなのにどうして、今まで感じたこともないほど、甘く…柔らかな唇だと思えたのだろうか。
子供らしさに相俟って、何とも形容しがたい艶やかさがあり、趙雲は悠生の泣き顔を…、その表情を、片時も忘れることが出来なかった。




盃になみなみと注がれた濁酒に、鈍い灯りが揺らめく。
ぐいっ、と一気に飲み干せば、体の奥底から熱くなるような、心地よさを感じた。


「趙雲よぉ…それぐらいにしねえか?いや、な。おめえが酔っていないってのは分かるんだが…」


口端を拭い、趙雲は「お気遣いなく」と呟いた(本当に、酒に呑まれてはいない)。
国一番の大酒飲みで知られる張飛が、趙雲の心配をする…実に奇妙な光景である。

夜も更けた頃、執務を終えた趙雲は、女官に酒を用意するよう頼んだ。
自棄になっている訳ではないが、今日は酒を飲んでぐっすりと眠りたかった。

女官は酒蔵で張飛に出会したらしく、それなら共に飲み交わそうと、張飛はこうして趙雲の部屋に訪れたのだ。
一人で寂しく飲むよりは、話し相手が居た方が良い。
暴飲する可能性を危惧してのことだが、張飛の言葉は右から左に流れていく。


「私は…いったい何なのだろうか…」

「あ?」

「決して、過ちは犯さぬと誓った。だが…私は愚かだ。いかなる理由があろうとも、触れてはならぬ人に手を出すなど…」


再び注いだ酒を煽るように飲み、趙雲は深く溜め息を漏らす。
張飛相手に何を口走っているのか。

趙雲はあの日からずっと思い悩んでいた。
悠生の涙を止めるために口付けた…、などと、下手な言い訳ではないかと、趙雲は自身に疑念を抱いた。
触れたいと思って、触れたのではないか?

散々、"趙雲どのは要らない"と喚かれたことで、意固地になり、自分を見てほしくなった。
だが、それだけである。
悠生を手に入れたいなどと、思った訳ではないのに。
阿斗に忠告を受けた時はそれほど気に止めなかったのだが、趙雲は確かに、過ちを犯した。

そもそも、趙雲は女性との付き合いが苦手で、恋人を持ったことはあるが…いつだって女を優先することが出来ず、不器用な性格も災いし、長続きした試しが無かった。
その結果、現在は強制的に見合いをさせられそうになると、今の自分には必要無いと適当な理由を付け、自ら逃げてしまうのだった。


(強気な女性に比べ、悠生殿なら…支配出来るとでも思ったか?)


いくら可愛らしい顔立ちをしているとは言え、悠生は男であり、しかも、まだまだ幼い。
守らなければならない人に対し、加虐心を膨張させ、手を出すなど…大人として許された行為では無い。


 

[ 104/417 ]

[] []
[]
[栞を挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -