愛しい魂



「夢を、見たのだ。そなたと…そなたによく似た娘の夢を」

「え!?そ、それって…、あ、でも、僕も阿斗の夢を見たんだよ。阿斗と、尚香さまの…」

「まことか?だが悠生が尚香に会ったことは無いはず…、いや、私が見知らぬ娘の夢を見たのと、同じなのかもしれぬな」


阿斗が、咲良の夢を見たのだと言う。
少し考えて、矛盾に気が付いた。
悠生はゲームで見ていたから、孫尚香という女性を知っていたが、阿斗は咲良の存在さえ知らない。
偶然にしてもおかしいだろう(まさか左慈が、と思い辺りを見渡したが、気配も無い)。


「あの娘は、誰だ?」

「阿斗が見た女の人が僕に似ているなら、僕のお姉ちゃんだよ」

「ならば、美雪とやらは…。そうか…」


阿斗はそれ以上を口にしなかった。
これまで、悠生が慕っていた美雪の死にも、一切触れようとしなかったのだ。
複雑な事情を抱えている悠生を苦しめないようにと、気遣っているのだろう。

阿斗がどのような夢を見たかは分からないが、悠生が孫尚香との過去を目の当たりにしたように、阿斗も…何か秘密を知ってしまったのだろう。
ただ、その先が、悠生にとって悲しみに満ちた空間であると察し、尋ねるのを躊躇っているようだ。


「お姉ちゃん…どんなだった?笑ってた?」

「ああ…。銀の笛を奏でていた。そなたは傍らで、美しい音に耳を傾け…とても幸せそうに…」

「うん…お姉ちゃんの音楽は凄いんだよ。阿斗にも聴かせてあげたかったな…」


阿斗は複雑そうな表情で、微笑む悠生を見ていた。
悠生が実姉と生き別れたことを知り、哀れむような、悲しげな眼差しを向ける。
…気になるならば、きちんと聞いてほしい。
自分から話すのは嫌だけれど、聞いてくれたら少しだけでも、答えてあげるから。


「…そなたが、夢では無くて良かった」

「っ……」

「私は前しか見ておらぬ。あの頃は確かに、誰より尚香が大事だった…だが今は、悠生と、星彩が居ればそれで良いと思う。悠生はどうなのだ?やはり、過去が大事か?」


阿斗が見た夢は、悠生の現実である。
でも、それはこの世に生きる誰が見ても、夢でしかない。
悠生の現実は夢となり、そして悠生にとっての夢が新たな現実となった。

…悠生はゆっくりと、首を横に振った。
全てを完全に否定しては嘘になるけれど、阿斗の意見には同意する。


「僕は…阿斗に、劉備さまが治めるよりも、良い国を作ってほしいな。民も、将も兵も…家族も。みんなが笑っていられるような…そんな国を、見てみたい」

「ああ。悠生が望むのならば。だが一つ条件があるぞ。ずっと、私の傍に居てくれ。何があってもだ」


勿論だと返事をする代わりに、悠生は深く頷き、一笑する。
誰が聞いている訳でも無いが、何となく、声にするのは気恥ずかしかったのだ。
しかし、それが気に入らなかったのか、阿斗は悠生の手を握り、じっと見つめてくる。


「ずっとだ。悠生よ」

「…うん。僕は此処に居たい。だって僕は…阿斗が一番好きだから。ずっと、一緒に居ようね」


その答えにやっと満足してくれたのか、阿斗は嬉しそうに笑った。
まだ、悠生の心の片隅には、咲良への未練が残っている。
姉への情は、いつまでも消えることはないのだろう。
それでも…咲良より、阿斗を失うことの方が辛いと、思うようになってしまったのだ。



END

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