誰かの徳の道



「はあ…っ、はぁ…」

「っ……、悠生…殿…」


趙雲の顔もまた、悠生と同じように赤く染まった。
一度も(ゲームの中でも)見たことがなかった彼の表情は衝撃的なもので、悠生も更に顔が熱くなる。
強烈な恥ずかしさを覚え、まともに趙雲のことを見ていられない。
ただ、キスをされたことに羞恥を覚えたのではなく、それよりも、感情のまま泣き喚いて醜態を見せたことに情けなさを感じた。

随分と長い時間が過ぎたような気がする。
部屋には、悠生の息の音だけが響く。
なかなか呼吸が落ち着かなかった。
だが、結果的に趙雲は悠生をおとなしくさせるために口を塞いだのだ。
手で口を覆うのではなく、唇で言葉を奪ったのは…乱暴な行動は避け、少しでも悠生を怯えさせないようにするためか。


「ああ、私は…過ちを…」

「え、え…?」

「悠生殿…、すまない、本当に…」


何故、趙雲が謝る?
謝罪すべきは間違いなく悠生の方であろうに。
状況が掴めていない悠生だが、頭を抱えていた趙雲が、平伏しようとするので慌てて止めた。
趙雲のそんな姿、見たくもない。
立ったままの挨拶が基本の国だ、土下座など最も屈辱だろう。


「趙雲どの…、怒って…いないんですか…?」

「怒るものか…、私こそとんだ無礼を、謝らねばならないのに…」

「……、」


怒ってほしかった訳ではない。
だが、あれほど迷惑をかけたと言うのに、趙雲は悠生を咎めることもしないのだ。
ただ趙雲は、キスで悠生を宥めたことだけを悔いているようだ。

悠生がじっと趙雲を見つめていると、彼はちょっと困ったように笑った。
その顔はまだ、赤いままだ。


「私のことが、煩わしいかもしれないが…悠生殿。私は貴方が心配で…じっとしていられないのだ。黄皓殿との一件もある。また何かあれば、すぐ私に相談してくれないか?」

「…趙雲どのは、僕の話を…聞いてくれますか?つまらなくても…?面倒くさいって、思いませんか?」

「思うはずがないだろう。他ならぬ貴方の話なのだから」


優しい声に、どきりとして胸が熱くなる。
また涙が出そうになって、苦しくなった。
唇を噛みそうになったが、ふと思い出して我慢する。
…本当に、嬉しかったのだ。
どんなことがあっても、趙雲は見守っていてくれる。


(僕に勇気があれば…、趙雲どのに、阿斗にも…僕の秘密を話してあげられるのにな…)


悠生は俯いたまま、趙雲の手を握った。
趙雲は驚いたようだったが、すぐに握り返してくれる。
この手は、少し意地悪でも…とても優しい手だ。
だから、怯えることなど無い。

もっと、人を信じてみても良いのかもしれない。
趙雲ならば、全て、受け止めてくれる…そんな気がした。
夢を現実とし、阿斗と共に在りたい。
そこには、趙雲も居てくれる。
きっと無くなることのない、優しさとあたたかさがあるから。



END

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