誰かの徳の道



無双だけど、無双ではない世界。
よく似ているが、ゲームの中に取り込まれた訳では無い、と言いたいのだろうか。

実のところ、この世界に来る直前のことを、悠生はよく覚えていない。
姉と二人で、ゲームをプレイしようとしていた。
だが、画面がフリーズして…、次に気が付いたときはもう、美雪の元にいたのだ。


「この世には、"久遠劫の旋律"というものがある。その音を聴けば、相手の心を意のままに操り、虜とする。仙人の間では、世を沈黙させるものとして、禁忌とされていた」

「…聞いたことがないです。僕の知っている無双には、そんな言葉…一回も出てこなかった」

「そなたしか知り得ないのだ。厳密に言えば、そなたと姉君…、現在、旋律を奏でられる者は彼女のみ」

「咲良…ちゃんが…?」


久しぶりに口にした、愛しい人の名前。
やはり、この世界のどこかに咲良が居る。
彼女も同じく蜀に投げ出されたとは限らないが、親切な人に出会って、幸せに過ごしていることを、願わずにはいられない。

だが、深く頷く左慈に、悠生は全てを理解せずとも、咲良共々大変なことに巻き込まれているのだと思い知らされたのだった。

悠生は音楽には詳しくないが、咲良はフルートの奏者だった。
学校の部活動だけではなく、自らレッスンを受けにいくぐらいだから、きっとその演奏も評価されていたのだろう。
だが、この世界では、姉の奏でる音が脅威となってしまうのだろうか。
旋律を知る、とは…つまり、曲名や楽譜を知っているということ?
体育と音楽の成績がすこぶる悪い悠生は、音符をお玉杓子以外に認識したことは無いというのに。


(咲良ちゃんは、僕が通知表を見せる度に嘆いていたよ)


全ては、必然だったのだろうか。
姉も、自分も。
この世界ではバグである二人が、キャラクターの誰もが知り得ないであろう、反則的な知識を得てしまったこと。

久遠劫の旋律とは、どの曲を示しているのかは分からないが、世を滅ぼし兼ねない音楽を知り得る咲良と悠生は、力を欲する者に狙われても可笑しくはないのだ。
誰にも話さなければいいことだが、考えると恐ろしく、こうなる運命だったのだから受け入れよというのは、酷である。


 

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