幸せの重荷



(び、びっくりした…)


落ち着きかけたはずの心臓がまた、ドキドキしている。
魏延は、言いたいことだけ存分にぶちまけて帰っていったようにも思えたのだが、去り際に見た瞳は…、悲しそうだった。

乱暴に、開け放たれたままの扉に目をやれば、部屋の中には…散らばった竹簡を拾い集める、諸葛亮の姿があった。


「やれやれ。魏延には困ったものです」


魏延の、ケンカの相手。
竹簡を片付けた諸葛亮は、魏延と鉢合わせしたことに驚いて一歩も動けずにいた悠生を、真顔で見据えた。
諸葛亮は最初から、悠生の存在に気が付いていた…、そんな雰囲気である。


「初めまして、悠生殿。お見苦しいところを…失礼致しました」

「え…あの、こちらこそ…初めまして…」


まずは謝るべきか…、だが悠生は、二人の会話の内容は全く理解していないし、そもそも、盗み聞きをしようとして立ち寄った訳ではない。

諸葛亮、孔明。
白い羽扇を手に、彼は悠生を招いた。


「貴方とは一度、じっくり話をしてみたいと思っていたのですよ」


悠生に悪意は無いことは、きっと承知しているのだろう。
諸葛亮は立ち聞きを咎めるために、悠生を部屋へ招こうとしているのではない。
だが…、悠生は鞍を片付けなければならないと理由を付け、彼の申し出を断った。

二人きりになってはまずいと思ったのだ。
趙雲以上に、諸葛亮は質が悪い。
その瞳で、人の本質を見極めようとする。
悠生の隠し事などいとも簡単に見抜き、さらには、異世界の人間だということも指摘されてしまうかもしれない。
否定したところで、追い詰められて逃げ場を失うのが目に見えている。


「そうですか…、残念ですね」

「申し訳、ありません…」

「良いのですよ。ただ、魏延のことが気になるのでは、と思いましてね」


魏延の名に反応した悠生は息を呑み、答えを求めて諸葛亮を見つめた。
扱いやすい単純な子供、だと思われただろうか。
諸葛亮は羽扇で口元を隠していたが、なんとなく、笑われているような気がした。

悠生は一歩、部屋の中に足を踏み入れる。
扉は開いたままだが、悠生はしっかりと諸葛亮を見つめ、言葉を紡いだ。


 

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