虚しい錯覚



具合が悪い訳では無いようだが、ただの体調不良であった方が良かったかもしれないと、趙雲は嘆息する。
悠生を涙させる理由を探ろうと、これほど頭を悩ませる必要も無かっただろうに。
掛布を無理矢理に剥ぎ取ることも躊躇われ、趙雲は仕方無く手を引っ込めた。


「何故だ…悠生殿…どうして泣いているのだ。それほどに黄皓殿が、嫌いかい?それとも、貴方自身に都合が悪いから、言えないのか?」

「……、」

「悠生殿…、いい加減にしてくれないか?黙っていては分からないだろう?」


悠生に自分の言葉が届かないことに苛立った趙雲は、わざとらしい溜め息を漏らしてしまった。
今、うずくまる彼がどのような表情をしているかは分からない。
だが、息を呑む音が聞こえた。
頑なな悠生は自ら作った壁を壊すことだけはしなかったが、彼にも、趙雲の溜め息はしっかり聞こえていたのだろう。

悠生は多感な年頃だ。
繊細で、物事を素直に受け止めてしまう。
趙雲も、悠生の性格はよく知っているつもりでいたが、それでいて何故このような態度が取れたものかと…、後になって後悔した。
一方的に問いを投げかけ相手を萎縮させてしまう、責めるようなきつい言い方だったと気付くも、口にしてからではもう遅い。


「そりが合わない人って、居るじゃないですか…諸葛亮どのだって魏延どののこと、会ったばかりなのに嫌いになったって。それと同じです。性格云々じゃなくて、もうその存在自体が苦痛なんです」


諸葛亮と魏延…何処で知ったのか、悠生は黄皓との関係をその二人の不仲に例えるが、それとは訳が違う。
魏延には反骨の相があるゆえに、彼はいずれ劉備を裏切ると、あらゆる分野に長けている諸葛亮は予期しているのだ。
その方面には詳しくない趙雲だが、理不尽だ、と思わないこともない。


「それでも、諸葛亮殿は魏延を認めている。互いに違和感を抱いていても、同じ志を持つ限り、共に生きることは出来るはずだろう?」

「同じだって、自分が思っていても、一緒にするなって言われたら、どうしたら良いんですか?僕はそんな綺麗事…信じたくない…!」


吐き捨てるように声をあげた悠生は乱暴に掛布をよけて起き上がり、見るに耐えない真っ赤な目で趙雲を睨んだ。
大人に、不信感を抱く瞳。
趙雲はその瞳を、よく知っていた。
阿斗が劉備を見る瞳に…そっくりなのだ。


 

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