薄暮れの鈴
「勇気を出して、許したんですよ?私は甘寧さんが言うような良い人間じゃありません。簡単なんかじゃなかった…苦しかったけど、だけど…!」
「別に、責めてんじゃねえよ。だがな、忠告するが、あんた…そんなんじゃすぐに死ぬぜ。乱世を生き延びられるとは思えねえ」
「し、死んだりなんかしません!!どうしてそんなこと、言うんですか…?酷いです…!縁起でもないこと、言わないで…」
思わずカッとなって反論してしまう。
死んでたまるものか、私にはまだまだやるべき事があるのだから、死んだって死にきれない。
見くびられたことが悔しくて、いよいよ堪えきれなくなった涙が頬をつたい、地面へ雫が落ちる。
沈みかけた太陽の光が甘寧の鈴に反射して、きらきらと…、眩しい。
「……あ?見ろよ、何か引っかかってんぞ」
「え……?」
甘寧は咲良の横を通り過ぎ、蔓の絡まる木に手を伸ばした。
ガサガサと、多くの葉に覆われたその中から甘寧によって引きずり出された、見覚えのある白い個体。
それはまさに、咲良が必死に探し求めていた、呂布の遺骨のペンダントだった。
下ばかり探していたため、木の枝に引っかかっているのを見逃していたようだ。
「ほらよ。これだろ、見付かって良かったな」
「…っ…うぅ…」
ぎゅっ、とペンダントを抱き締めて、咲良はぽろぽろと涙を流した。
安心したのと、不甲斐ない自分が情けないのと、様々な感情が入り混じって訳が分からないことになっている。
「無くさねえように、首から下げとけよ。貸してみな」
「で、でも……」
甘寧はペンダントを半ば強引に受け取り、(貂蝉のものだからと)躊躇う咲良の首に通した。
胸元に揺れる、呂布の遺骨。
少し汚れてはいたが、綺麗に拭けば、元の白さを取り戻すだろう。
この場所でペンダントを守ることを、貂蝉は許してくれるだろうか。
安全と言えば安全だが、常に呂布と密着していることになるから、少し気になる。
「か、甘寧さん…ありがとうございました。感謝します…」
「……、まあ、良いってことよ。さっきは…悪かったな?生きたいと強く願っている人間は、死なねえよ。あんたはちっとばかし危なっかしいが、そこは俺が…」
ちりん、と鈴の音が近付いてくる。
地に伸びる影の距離が急に縮まり、咲良は改めて甘寧を見上げた。
彼の上半身は、細かい切り傷だらけだった。
草むらを掻き分けた時に出来た、まだ真新しい傷の痕。
それほど真剣に、甘寧はペンダント探しを手伝ってくれたのだ。
血のにじむ様が痛ましく思えて、咲良は申し訳なさに眉をひそめたが、甘寧の表情は穏やかだった。
「もう、娶るとは言わねえ。嫌なんだろ?だから、妹分として、あんたを守ってやるよ」
「それは……」
それは、誰のため?
わざわざ尋ねる必要はなかった。
甘寧は自分の思いのままに動く人だから。
咲良のためでもあり、やっぱり、自分自身のためなのだ。
END
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