薄暮れの鈴



(どうしよう…!すぐに行かなきゃ!)


咲良は状況が呑み込めていない侍女に頭を下げると、慌てて部屋を飛び出した。
階段を駆け下り、すれ違う人々に変な目で見られようとも気にしていられない。
一番近い出入り口が外に通じていたため、道に迷う心配は無かった。

日頃から運動不足の咲良ははあはあと息を吐き、乱れた呼吸を落ち着かせる。
どうにか部屋の真下まで辿り着いたが…思った以上に現場は酷いものだった。
咲良の腰ぐらいまで育った雑草や、蔓の巻き付いた木々が行く手を阻む。
此処から目的のものを見つけ出すのは相当に困難であろうが、大変だからと言って諦めることなど出来ない。

意を決し、咲良は草むらに足を踏み入れた。
すると、まだ何もしていないのに…、鋭い葉がかすった手の甲に、ぴりっと痛みが走った。
見れば、じわじわと赤い血が溢れだしていて、咲良は立ち眩みを起こしてしまいそうになる。


「っ…もう…」


咲良は唇を噛みしめると、身を屈めて草をかき分け、必死になって遺骨を探した。
早く、早く見付けなければ。
もしも無くして…失ってしまったら?
謝って済むことではないだろう。
貂蝉に合わせる顔だって無い。
それほどに大切な物だったのに、落としてしまうなんて…咲良は己の不用意な行動を咎めたが、焦りと申し訳なさから目に涙が滲み、我慢することも出来なかった。


「あんた、こんな所で何してんだ?」


ちりん、と何処かから鈴の音が聞こえてくる。
一人きりの静かな空間に突如として響いたのは、甘寧の声と乾いた鈴の音だった。

怪我をした腕を庇いながら、地べたに膝をついて探し物をしていた咲良だが、甘寧に声をかけられ、驚いて振り返る。


「落涙、何やってんだよ?汚れまくってるぜ?」

「うそ…、やだっ…」


二度目の問いにも答えられず、咲良は顔や髪が土で汚れていることを指摘され、恥ずかしさに目を伏せた。
どちらの手も土まみれだったので、服の袖でごしごしと涙を拭った。


「あんたが血相を変えて走っているからよ、何かあったのかと思って追いかけたんだ。んで、もう一度聞くけどよ、あんた……おい、泣いてんのか?」

「っ…甘寧さん…お願い、一緒にっ…」

「まずは落ち着け。何だ?探し物か?」


 

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