愛らしい娘



日々を療養に費やしていた咲良は、予定よりも早く、頭の包帯を取ることが出来た。
幸い、額には目立つ傷痕も残っていなかった。
残すは骨折してしまった右腕だが…、じくじくと疼くような痛みは減ったものの、まだ添え木を外すことは出来ない。
ちゃんと骨がくっつくようにとのことだ。

そして、その日のうちに咲良は病棟から一般棟へ移動をすることになった。
新たな部屋を与えられたとは言え、持ち物はフルートだけの、非常に楽な引っ越しである。
完治するまでは定期的に診察を受けにくるようにと言われ、咲良は素直に頷いたが、蘭華の元へ戻るには、まだ暫く時間がかかりそうだった。

それでも、暇を持て余すことは無いだろう。
孫策の娘の笛の師として…、と言うより、部活で後輩に音楽を教えるような感覚だ。
高校での日々を思い出して懐かしさを感じながら、これから小春と音楽を通して交流出来ることを、咲良は緊張しつつも、楽しみにしていた。


「落涙さま!おはようございます」

「小春様!」


新しい部屋へ移動中だった咲良を見つけた小春は、後ろに数人の侍女を引き連れたまま、とことこと近付いてきた。
何度見ても可愛らしい人の笑顔に胸がきゅんとし、思わずにやけてしまいそうになる。


「落涙さま、包帯が…、ということは、一般棟に移られるのですね!」

「はい!ご覧の通り、まだ笛は持てませんが、明日には小春様に音曲をお教えすることも出来ると思います」

「本当ですか?楽しみにしていますね!落涙さま、あの…笛の指南は明日からと言うことで、今日は別にお時間をいただけないでしょうか?私の、話相手になっていただきたいのです…」


頬を染めながら、小春は恥ずかしそうにお願いをする。
それが予想外のお誘いであっても、嫌だと言うはずがない、むしろ大歓迎だ。
勿論良いですよ、と答えれば、小春も安心したように微笑んだ。
彼女は姫君と言う立場上、年の近い友達がなかなか出来ないのだろう。
侍女には気を使われ、小春が本当に心を許せる存在は、母親の大喬だけなのかもしれない。

咲良の隣に並んだ小春は、子供らしい満面の笑顔を見せてくれる。
可愛い上に、眩しすぎる(卒倒してしまいそうだ)。
どうやら小春は、一緒に咲良の部屋へ来てくれるらしい。
小春の私室に案内されるよりは、気を使わなくて良い。

新たに与えられた咲良の部屋は、病室よりも幾分か広く、だがやはり質素な造りだった。
元々、咲良は派手な物を好まないため、この落ち着いた雰囲気は性に合い、すぐに気に入った。
小春の侍女が湯気のたつ茶や菓子などを手際良く円卓に並べると、会釈し、静かに退室する。


 

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