暗き夢の中



「たまたま通りかかったのです。お二人はいったい、何をなさっているのですか?」

「そりゃあ異様な光景ですよね、軍師殿。この馬鹿野郎と同じ空間に居ながらも怒りを抑える訓練をしていたんです。…ああっ、苦痛で死にそうだっつの!」


凌統が頭を抱えて怒りを露わにする意味も分からないが、甘寧を苦手としている凌統が限界を訴えながらも此の場にとどまっていることを考えると、甘寧が何か真剣な話をし、凌統もそれを聞き入れたのではないか?
喧嘩をふっかけただけならば、互いにこうやって大人しくしているはずがない。


「軍師殿、一応言っておきますけど、俺はこいつと和解するつもりはありませんよ!?ただ…あの娘がそれを望んでいるなら…」

「あの娘とは…、もしや、落涙殿のことでは?」

「そうだよ。昨日俺が見舞いに行ったらよ、あの女、今回の件を許してやる代わりに、凌統と仲良くしろって要求しやがったんだ。全く、無理な注文をしてくださったもんだぜ」


それは、驚くべきことだった。
孫家そのものや呉軍の将に縁が無かったてあろう落涙が二人の不仲を知っていたこともだが、人一倍頑固で素直ではない彼らが彼女の要求を呑み、努力をしていることに陸遜は感心した。
しかし、あえてそのような条件を出すことで、彼女にどんな利があると言うのか…もしかしたら、二度と笛を持てない体になっているかもしれないと言うのに。


「仲良くなんて出来るはずがないだろ!?俺はあんたが気に入らないんだよ!しかもあんた、あの娘を口説いたんだって?」

「はあ?」

「凌統殿、どういうことでしょうか」


すかさず反応した陸遜に、凌統は少なからず驚いたようだが(なんという失態だと、舌を打ちたくなる)、それでも甘寧を睨み続けながら、事の次第を話し始めた。


「女官が言っていましたよ。こいつが、あの娘の病室に押し掛けて、強引に押し迫っていたって」

「知らねえな。俺は怪我人に手を出すほど女に困ってねえよ」

「あんたのことだから、女官の噂話の標的になるような、何か余計なことをしたんじゃないの?」


思い出してみなよ、と凌統の問いに、へらへらしていた甘寧はふいに押し黙った。
あー、と間の抜けた声を出し、記憶の糸を辿っていたらしい甘寧だが、良くないことを思い出したのだろう、言いにくそうに目線を逸らした。


「…泣かせたな、そう言えば」

「甘寧殿!貴方という人は…!」

「ち、違えよ!俺は何もしてねえよ!あの女が勝手に泣きやがったんだ!」


陸遜に説教をされると思ったのか、甘寧は慌てて弁解をする。
しかし、言葉ではどうにも説明しきれないと判断すると、鈴の音を響かせてその場から逃げ出してしまった。

そんな甘寧を追いかけるほど、陸遜は冷静さを欠いてはいない…、つもりでいた。
ならば、どうして声を荒げる必要があった?
自分でも解せぬ疑問に、陸遜は深く溜め息を漏らし、頭を抱えた。

そして、気になるのは凌統の方だ。
落涙の話題など、陸遜には関係ないはずなのに、僅かながら焦りを見せてしまった…、今更誤魔化そうとしても、きっと凌統には通じない。
彼は甘寧が隣に座していた時からは想像も出来ないほど柔らかな表情をし、落ち込んでいた陸遜に笑いかける。


 

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