永遠の花が咲く



「陸遜様は…、私の音、聴いてくださいましたか?」

「勿論ですとも。天の国の響きを想像させる、とても美しい旋律でした。ですが、やはり涙は流せませんでした」

「うう…ちょっと悔しいです…陸遜様の泣き顔、見たかったな…」


失礼だとは思いつつ、唇を尖らせた咲良は、爽やかに微笑む陸遜をじっと見詰めた。
二人が交わした約束は、過去のもの。
友達になるのに、言葉など要らない。
確かに、咲良と陸遜は固い友情で結ばれたはずなのだ。
だが、心のどこかで、咲良は陸遜を泣かせたいと思っていたらしい。
無性に悔しいのは、そのせいだろう。


「そうは言いますが、咲良殿は泣かれないのですか?貴女は"落涙"だと言うのに」

「もう泣いたりしませんよ。私は落涙ですが、最後ぐらい、泣かないって決めたんです」

「強くなられましたね。出会った頃は、ありふれた少女かと思っていましたが…やはり、貴女は私にとって、誰よりも特別な女性です」


にっこりと笑う陸遜が、咲良には眩しく見えた。
…初恋の人、とも言えるだろうか。
今でこそ恋愛感情は無いが、咲良にとっても陸遜が特別な存在であることは、紛れもない事実である。

ぱんっ、と光が音を立てて弾けだした。
ぱん、ぱんと次々に破裂する小さな粒子。
咲良は初めて瞳を揺らし、思わず、陸遜に手を伸ばした。
彼もまた、誘われるままに手を差し出す。
だが、透き通った手のひらは彼の体をすり抜け、触れることさえ出来なかった。


「私は、陸遜様のことが大好きです。大切な友達ですから」

「咲良殿、」

「えへ…へ。陸遜様…きっと、元気なお子さんを生んでくださいね!」


最後のお願いをする。
初めて出会った日に交わした言葉を、同じようにして繰り返す。
幸せに、なってくださいと。
陸遜は目を丸くしたが、一笑し、深く頷いた。

ぱんっ!!と一際大きな粒子が弾け飛んだ。
すると目の前が、真っ白に染まった。
咲良の命の灯火が宙に散り、空気に溶けるようにして、天へと還っていった。


「咲良殿…貴女は私の掛け替えの無い友でした…」


触れられもしない光の粒を握り締めた陸遜は、静かに目を閉じて、咲良の名を呼んだ。
陸遜の微笑みには、陰り一つ見られない。
以前のように、無理をして人好きのする笑顔を作ることは、無くなったのだ。
咲良に、生涯の知音と呼べる存在に出会えたから。

陸遜は再び、前を向く。
彼の純粋な瞳には、咲良が命懸けで守った世界への、新たな希望に満ち溢れていた。



END

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