永遠の花が咲く



「咲良殿…間に合って良かった…これを受け取ってください。小春殿から預かったものです」

「これって…小春様の櫛じゃありませんか!?私には受け取れません…だって小春様、あれほど大切にしていたのに…」


陸遜が懐から取り出したのは、紅色に染まり、金の細工が施された櫛だった。
彼が、可愛らしい婚約者に贈ったもの。
小春の宝物を預かってきただなんて、経緯や理由が分からないままでは、咲良には受け取ることなど出来そうにない。


「先程、小春殿から、全てを聞かせてもらいました。貴女が御身を犠牲にし、世界を救った真実を…」

「いえ…私は楽師としての役目を果たしただけです」

「たとえこれが果たすべき使命であったとしても、私は貴女を讃えるつもりはありません。小春殿も、私も…咲良殿のことを誰よりお慕いしていたのですから」


眉を寄せる陸遜の声はとても弱々しい。
普段の咲良なら即座に赤面してしまいそうな言葉だが、陸遜は心から、咲良との別れを惜しんでくれたのだ。
彼が手にした櫛には、傷一つ無く、小春がいつも丁寧に扱っていたことがうかがえる。
それを咲良に預けると決めた小春は、再会したばかりの陸遜に、全てを託して…。


「私たちのことを、決して、忘れてほしくないと…小春殿が願われたのです」

「そう、でしたか…、ですが、私がお二人のことを忘れるはずはありませんよ。これを受け取ることは…」

「いえ、構いません。小春殿には改めて、贈り物をしましょう。ですから、これはどうか咲良殿が…」


小春は、咲良の定めについて打ち明けただけで、きっと己にかせられた運命は、隠したままなのだろう。
咲良にはどうすることも出来ない。
悲しい未来を知っていても、小春が言いたくないのならば…陸遜に告げ口をすることは出来なかった。
それならば、小春の宝を受け取って大事に守り続ける…それが小春の気持ちに応える、唯一の方法かもしれない。
それに、いつまでも押し問答を続けていては、言いたいことも言えぬままに別れの瞬間を向かえてしまいそうだ。


「…ありがとうございます、ずっと、大事にしますね」

「ええ、これで私も安心して貴女を見送ることが出来ます」


くすくすと笑う陸遜は少女のようで、咲良は彼の鮮やかな笑みを眩しげに眺めていた。
そして、紅色の櫛を受け取る。
泡のように咲良を取り囲む粒子は櫛にもまとわりついて、同化したように発光し、すうっと透けていった。


 

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