永遠の花が咲く
「俺は、此処でずっと貴様に守られていた。だから、貴様を信頼して言うんだ。…幸せに、生きろ。でなければ俺が殺してやる」
何処かで聞き覚えのある台詞…それはかつて、呂布が貂蝉に語った、恐ろしくも純真な愛の言葉である。
幸せに生きてほしいが、他の男のものになるなら死んでほしいと。
同じように、彼は幸せに生きるつもりがないなら自分がこの手で…、と咲良に忠告をした。
実際に、呂布と言葉を交わしたことは、ほとんど無い。
今日が初対面と言っても間違いではない。
それでいて呂布は、貂蝉の友である咲良を想い、幸せを願ってくれたのだ。
此処で得た以上の幸福を手にすることは、恐らく不可能だろう。
だが、呂布が望んでくれるのならば…、必ず、幸せに生きてみせようと思う。
「ふふっ、私にも同じことを言うんですね。…でも、ありがとうございます。では、暇乞いはこれにて…」
そろそろ、時間のようだ。
光が徐々に分離し始め、細かな粒子が誘われるようにして天へと昇っていく。
全てが弾けたとき、この世界での咲良の命は終わるのだろう。
咲良と呂布は体を離すと、互いに見つめ合っていた。
このまま、音も無く消えて無くなる…、そのはずだったのだが、第三者の駆ける足音が此方に近付いてくるのを、咲良も呂布も聞き逃さなかった。
「チッ…邪魔が入ったな。追い返してやる」
「りょ、呂布さん…待って…」
呂布の後を追おうとした咲良だが、力が入らなくなって思うように動けず、その場にへたり込んでしまう。
もしかしたら、咲良を救出しに現れた仲間かもしれないのに。
呂布に手をかけられてしまったら、相手が無事でいられるとは限らない。
足音は次第に大きくなり、ついには咲良達の目の前に、その姿を現した。
「咲良殿!!此処にいらっしゃいましたか…!」
「り、陸遜様っ!?どうして…」
美しい顔を煤で汚し、灼熱の炎の中、たった一人で咲良を追いかけてきたのは、陸遜だったのだ。
呂布は初めこそ、陸遜に殺意を向けていたが、"咲良と共にあった記憶"のためか、ぎりぎりのところで陸遜の介入を許してくれた。
「ふん。見送り役は小僧に任せてやろう。俺は貂蝉の元に戻る」
「ありがとうございます…呂布さん…」
「礼など不要。さらばだ、咲良」
咲良は深く頭を下げ、呂布の小さな優しさに感謝をした。
ぴくりとも眉を動かさず、呂布は再び赤兎馬に跨ると、陸遜をぎろりと睨み付け、颯爽と走り去っていった。
そして、陸遜だけが残った。
咲良から弾け飛ぶ粒子の量は増し、ついには体が透けてしまう。
異常な状況ではあるが、陸遜は動揺することもなく、咲良の目の前で片膝を突いた。
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