永遠の花が咲く
もしかして、見送ってくれるつもりで?
赤い瞳を見つめても、咲良の疑問に答えてはくれない。
咲良は宙に投げ出されそうになりながらも、遠ざかっていく仲間たちの顔を必死に目に焼き付けようとした。
さよなら、は言いたくない。
私の心は、いつまでも此処にあるから。
「っ…ありがとうございました……!!」
舌を噛みそうになりながら、咲良は喉が枯れそうなほどに大きな声で、礼を言う。
ごめんなさい。
別れを告げずに消えることを、許してください。
ありがとうと…咲良は感謝の言葉だけを口にした。
門をぐぐった瞬間、入り口は大きな音を立てて崩れさり、咲良と呂布は燃え盛る古志城内部に閉じ込められてしまった。
咲良を守護する太公望の羽衣は火の粉さえ弾き飛ばすが、炎は視界全体に広がり、言いようのない恐怖を生む。
それでも呂布は顔色一つ変えないのだ。
「あの…呂布さん…」
「貴様の最期は、俺が看取る」
「で、でも…このままじゃ呂布さんまでっ…」
「俺は二度は死なん。俺は貂蝉のために生きる。そして、貂蝉が愛した貴様を愛している」
思わぬ告白に、咲良は目を丸くした。
呂布のことだ、深い意味は無いのだろうが…、咲良を笑顔にさせるには十分だった。
呂布は古志城の最深部…玉座の間を過ぎた部屋にある広い空間に辿り着いたとき、漸く手綱を引いた。
此処にはまだ火の手が廻っていない。
光り輝く咲良を静かに床へ降ろした呂布だが、多くを語ろうとしなかった。
しかし咲良は呂布の顔を間近で見て初めて、彼の異変に気が付いたのだ。
頬に…涙の流れた跡があった。
信じられず、思わず手を伸ばし、熱風で乾いてしまった涙の気配を、指先で辿る。
呂布は文句を言うこともなく、咲良の好きにさせてくれた。
「お別れだな」
「そう…みたいですね。でも、きっと大丈夫です!今度こそ、貴方は愛する人のために生きてくださるのでしょう?」
彼が流した涙の理由を尋ねたりはしない。
こんなにも…綺麗な瞳をして、呂布は他人のために涙を流せる人だったのだ。
親友の幸せを願う咲良は、呂布の頬に触れさせたままの指を滑らせ、貂蝉の最愛の男を見つめた。
すると呂布も目を細めて咲良を見つめ返す。
彼の指先は、咲良の胸元に揺れる、花形の首飾りに触れた。
そこにあるのは寂しげな白い遺骨ではなく、愛する人に手渡された愛の証である。
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