枯れ果てた眼



こんなにも違うと否定しているのに、咲良の心は、陸遜のことが好きだと勝手に思い込んでいるのだ。
一人のキャラクターに対して抱く感情にしては、度が過ぎている。
ここまで来たら、重症だ。
何を勘違いしてしまったのだろうか、身分の差だって明確で、元より手の届く人間ではなかった。
友達になってほしい、なんて、嘘でも言うべきではなかったのだ。


「陸遜様」


ぴたりと立ち止まって、前を歩く彼の背に声をぶつける。
名を呼ばれて振り返った陸遜は、やけに思い詰めている咲良の表情に驚いたようで、瞳を瞬かせた。
この悩み事は、他人に打ち明けられるはずもない。
だから、全てを偽ることでしか、自分を守ることが出来なかった。


「私……、実は、甘寧さんのことが好きなんです。だから…、あの約束は無かったことにしていただけませんか?」

「…無効にせよ、と?」

「…はい…」


甘寧のことが好きだからと、心にも無いことを口にした罪悪感に襲われ、咲良はぐっと唇を噛み締める。
噂を利用するために、嘘を言った。
先ほどの見張りたちのように、広まる噂を咎めたりもせず、迷い込んだ咲良を親切にも助けてくれた陸遜を、裏切ってしまった。

これ以上、陸遜の近くに居たら、優しくされたら、戻れなくなるような気がしたから。
ひっそりと交わした他愛もない約束は、陸遜への咲良の恋心を大きくするだけの、邪魔なものとなる。
愛など要らなかったのだ、友達になれたら、それだけで嬉しかった。
…いつしか陸遜と結ばれるはずだった友情を、自ら、手放すこととなるなんて…


「あなたにそのような酷い傷を負わせた男ですよ?どうしてこの数日で…、理解に苦しみますね。もしや、あの見張りの言う通りだったのでしょうか」

「だったら、どうしますか?」

「軽蔑します」


ずきん、と先程よりも大きく、えぐられるような痛みを覚えた。
きっぱりと意見を発言する、それが彼の長所なのだが…やはり些か辛いものがある。
でも、これで良かったのかもしれない。
嘘を付くことで(甘寧はとばっちりを受けるが)小春と陸遜の関係を壊さずに済むのならば、良いではないか。


「此処まで来れば、迷うことも無いでしょう。では、失礼致します。これからは、あまり勝手をなさらぬように…」

「……、」


声は優しげだったが、目も見ずに、別れを告げられた。
まるで、全てを拒絶されてしまったかのようだ。
咲良は礼を言うことも出来ず、どんどん離れていく陸遜の後ろ姿を見ていた。


(思っていたよりも…苦しいかな…自分のせいなのにね)


本当に、愚かなことをしていると思った。
一刻も早く悠生を捜し、ともに帰る方法を見つけること、それが最優先ではないのか。
そして、貂蝉を見つけだして、ペンダントを渡さなければならない。
今、自分がすべきことは何なのか、忘れた訳ではあるまいに。

大事な目的を見失い、このような余計な感情を抱いてしまうぐらいなら、彼に出会うべきじゃなかった。
……とても、切ない。
これがゲームだったら、リセットをして最初からやり直すことが出来るのに。
現実は、ゲームとは違うのだから。
いくら後悔したって、何も変わらないのだ。



END

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