永遠の花が咲く



「…貴様は…春を産む…春は再び訪れ…花を咲かせる…」

「…じゃあ、遠呂智さんも見ていてくださいね。綺麗な花を咲かせる春はきっと、遠呂智さんのところにも訪れるから…」


春は、始まりの季節だ。
咲良が春を産むと言うのならば、終わりをむかえることになる遠呂智の元にも、花は咲くはずだ。
苦しげに呟く遠呂智に微笑みかけ、膝を突いたまま、咲良は銀の笛を構え、唇を寄せた。
共に舞うと約束してくれた、錘を手にした貂蝉と目配せし、咲良は大きく息を吸う。
綴られた歌詞を、紡がれた音を、そして歌に込められた意を理解し、夜空に旋律を響かせるのだ。


画地為牢 実際上疲労 装做无所謂
不露出 亳 孤寂的容貌 享受命運安慰
徘徊人生滋味 未来 光輝
祝福 尽全力没有因為
微弱的脈搏和澎湃的胆魂
拓出生路永住无畏



――物事の終わりを受け止めなさい。
おかえりなさい。
やがて来たる未来を喜びなさい――


遠呂智のための子守歌は、線上に散った者達への鎮魂歌でもある。
悠生からの書状により、孫呉、そして蜀の武将達は共に生路を唄うことが出来る。
皆の声が幾重にも重なり、咲良の奏でた音と混じり合う。
その中でも、少し音を外した孫策の声が一番響いていて、尚香や孫権は押され気味だ。
だが、みんな笑っている。
子守歌を唄っているというのに、賑やかなものだ。

そんな孫権らに促されるようにして、周泰もぼそぼそと唄ってくれているようだ。
彼の声は全く聞こえないが、一生懸命に唄っている姿が、凄く素敵に思えるのだ。
なんて楽しげで、騒々しい子守歌。
これでは、遠呂智を眠らせることなど出来そうにない。
だけど、咲良は予感していた。
皆の想いはきっと、悲しみの淵にある遠呂智に伝わるはずだと。


(まだかすかに脈もあるし、波打つ鼓動もある。その音を辿って、この回路から抜けなさい…)


穏やかに舞う貂蝉を手助けするかのように、いつしか織田軍に従っていた阿国が、番傘を手に舞いに加わり、艶やかな踊りを披露した。
歌よりも踊りが好き、そう思ったらしい小喬は大喬を引っ張って、此処が戦場であることを忘れ、思い思いに舞い踊り始める。


――寂しいとき、は夢に生きる前に、
あなただけの世界を隅々まで確認して――


 

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