永遠の花が咲く



セーラー服を着た楽師が歩みを進める。
世界の静寂を取り戻すために、笛を奏でに行くのだ。
落涙を知る兵卒らは次々と道を開け、咲良を舞台へと導いてくれた。

孫呉の仲間や、蜀の人々、織田信長に従う者達、さらには曹魏の旗もはためいている。
全ての勢力が、古志城に集っていた。
人々の心が、ひとつになった。
奇跡のようなラストシーンに、咲良は言いようのない感慨深さに浸っていた。
感謝をしても、仕切れない。
皆の気持ちに応えるためにも、美しい旋律を奏でたい。


「孫策様!お待たせしました」

「咲良!…何だぁ、その格好は」

「え、あの、これは…正装…です?」


全ての事情を知る孫策は、普段の暑苦しさからは想像も出来ない優しげな笑みを浮かべた。
彼の仙人としての記憶は、ついに戻らなかった。
だが、それで良かったと思う。
非業の死を遂げた仙人ではなく、太陽のような孫策が居たからこそ、孫呉は再び光に向かって歩みを進めることが出来たのだから。


「咲良…ごめんな」

「謝られることなんてありませんよ。孫策様、私の…落涙の音を聴いて、一緒に唄ってくださいね」

「おう!お前の音曲、俺も楽しみにしていたんだ」


彼らの優しさに咲良の決意が鈍ることはあっても、この決意が変わることは有り得ない。
笑顔で見送ってもらった方が、ずっと嬉しいのだ。


(ねえ悠生…私…精一杯頑張るから…聴いていてね)


咲良は初めて、遠呂智と対峙することになった。
彼らが取り囲んでいた遠呂智は、地に伏せ苦しげに息を吐いている。
うっすらと開いた瞳は今にも閉ざされそうで、立ち上がる力も残されていないようだ。
傍らに道士である左慈が目を光らせているところを見ると、遠呂智が再び武器を持つことは無いだろう。

咲良は地に膝をついて、遠呂智を見詰めた。
不思議と、恐ろしさは感じなかった。
迷わず手を伸ばし、遠呂智の色の悪い肌をそっと撫でる。
すると遠呂智は、焦点の合わない瞳で咲良を見つめ返した。


「初めまして、遠呂智さん」

「…落涙…か…我に永劫の眠りを…死を…齎す者…」

「確かに、貴方を眠らせる私の笛は、死の旋律かもしれません。でも私、どうしても遠呂智さんに、子守歌を届けたいんです。私が一緒に…貴方の苦しみを持って帰ります」


途切れ途切れに恨み言を呟く遠呂智だが、咲良が笑みを絶やすことは無かった。
生路という歌は、死の旋律では無いのだ。
生きる路…未来へと繋がる希望の歌。
大きな罪を犯した遠呂智に、未来は望めないのかもしれない。
それでも…、出来ることなら少しでも、悲しみを減らしてあげたかった。


 

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