永遠の花が咲く



「咲良、お前が遠呂智を眠らせたら、私達仙人が遠呂智を封じよう。二度と、悪夢を繰り返さぬよう尽力するつもりだ。お前の努力を、無駄にはしたくない」

「はい。女禍さん…後のことはお願いしますね」

「勿論だ。…ああ、実は坊やから預かりものがあるのだ」


太公望さん?と咲良が聞き返すと、女禍は意味ありげに口元を釣り上げた。
彼女が白い手をかざすと、咲良の全身がほのかな輝きに包まれる。
すると次の瞬間、それまで身に纏っていた服が、見慣れたセーラー服に早変わりしていたのだ。

真っ白なブラウス、ふわりとした紺のスカートと鮮やかな赤のリボン…、三国時代にも、戦国時代にも有り得ない学生服姿は、咲良が世界に落とされた時と同じ格好である。
誤解から太公望にフルートを破壊された日、このセーラー服も一緒に取り上げられてしまったのだが、女禍に預けてくれたようだ。


「うわぁ…懐かしい…!」


久しぶりに袖を通したセーラー服に、意味もなくはしゃいでしまう。
同時に、気を引き締めなければと思う。
今となっては現実を思い出させる、唯一の品だった。
明日には、ただの女子高生に戻っているはずだ。
泣いても笑っても、現代に帰ったらすぐにこのセーラー服を、毎日着ることになるのだから。


「やはり、咲良にしか似合わぬ装束だな。その姿ならば、お前は無事に故郷へ帰れるはずだ」

「この姿なら?」

「術を用いたのだ。この私と伏犠が力を合わせるなど滅多に無いことだ。それに加え、坊やが与えた羽衣もある」


咲良が役目を果たしたら、この世界で死を得る前に故郷へと連れていく…、以前、伏犠は不安がる咲良を励ますようにそのようなことを話して聞かせた。
この懐かしい制服が、そして羽衣が…仙人達がすぐ傍で守ってくれていると思えば、咲良には不安など感じる余地も無い。


「さあ、始まりの日のままに、笛を奏でるのだ。貂蝉も…傍で咲良を支えてくれ」

「勿論ですわ。私は最後まで、咲良様のお傍に…」

「では、先へ進め。お前達の晴れ舞台、私と小春も見守っているぞ!」


女禍は、門の先を指差して言った。
その向こう側には、既に多くの武将達が集まっている。
虫の息となった遠呂智を取り囲み、今にもとどめをさそうと言うところのはず。
今から、彼らに見届けてもらおう。
咲良と悠生の愛した世界の、新たなはじまりの瞬間を。


「じゃあ、行ってきますね、蘭華さん!」

「ああ…頑張っとくれ!あんたはいつまでも私の可愛い娘だよ!」


女禍は最後に、蘭華の顔を見せてくれた。
この世界で初めて、手を差し伸べてくれた人。
蘭華の母のような優しさを、女禍の気高き御心を…決して忘れはしないだろう。

門をくぐる咲良と貂蝉の背を、女禍は瞬きもせずに見つめていた。
別れを惜しむその言葉を、口にすることを拒むかのように。



 

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