永遠の花が咲く



「落涙さま!お待ちしておりました」

「え…小春様!?どうして此処に…」


貂蝉と護衛兵に守られながら、咲良は跳ね橋を渡り、古志城の本丸の正門前まで足を運んでいたのだが、そこで、戦場には不似合いな幼い人に名を呼ばれた。
流石に、驚かずにはいられなかった。
ぎこちない笑みを浮かべているのは、小春だ。
しかし彼女は、身の安全を考慮し、呉軍の拠点となった小牧山城に残してきたはず。
疑問は次々と浮かんだが、小春の傍らに姿を現した美しい仙女…女禍の姿を見て、だいたいの理由を察することが出来た。


「咲良、小春と共にお前を見送りに来た。どうしても、と望まれたのでな」

「そうでしたか…女禍さん…小春様、ありがとうございます」


見送りだなんて、まるで旅立ちや門出のお祝いのようだ。
小春を連れ出したのは女禍であろうが、小春が望んで見送りに来てくれたのだと思うと、悲しいはずなのに、心があたたかくなる。

笑顔を浮かべた咲良だが、微笑む女禍に対し、小春は神妙な顔つきで、口を閉ざしてしまうのだ。
咲良との永久の別れを、世界に命を捧げなければならない宿命を、彼女は他人ごとながら、まだ受けいれることが出来ないのだろう。
形は違うが、いずれは自身が背負うことになるから。
咲良の辿る道と同じように、小春もまた、茨の道を歩まねばならないから。


「小春様…私、小春様に出会えて良かったです。ずっと私は、弟と一緒に笛を吹きたいと願っていました。それは叶いませんでしたが…私と笛を奏でてくれた小春様は、本当の妹のようでした」

「落涙さまっ…わたしも…誰より落涙さまを尊敬しておりました…!一度だけ…姉上と呼んでも宜しいでしょうか…?」


嗚咽を堪えながら必死に想いを伝える小春が可愛らしくて、咲良はこの瞬間だけ、妹となってくれた小春を強く抱き締めた。
あねうえ、と可愛らしい声で呟く小春の姿を見て、幸せとともに苦しみも感じる。
本当に、失いたくないものが多すぎた。
だが、一番大事なことは何か、咲良にはよく分かっている。

私は、皆の未来を守りたい。
その信念を実現させるため、成すべきことを成さねばならない。
ぬくもりを手放して、咲良はまたもや瞳を滲ませながらも、笑ってみせた。


 

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