永遠の花が咲く



咲良ちゃん!と泣き出しそうな声が呼ぶ。
未だに変声期を迎えていない、記憶と変わらない、幼いままの声だった。
涙は止まらなかったけれど、咲良は手を振り、満面の笑みを見せた。
ありがとう、大好きだよ。
その言葉だけで、咲良はこの先の未来を生きていける。


(悠生……)


咲良と貂蝉は、何事も無かったかのように幕舎に戻っていた。
西王母も、呂布も、悠生もいない。
だけど、抱き締めたときの柔らかさ、あたたかさをよく覚えている。
この温もりはきっと…、忘れないし、忘れられない。

悠生に触れた手のひらを見つめ、ぽろぽろと涙を流す咲良を、貂蝉はそっと抱き寄せる。
今すぐ、彼女の胸にすがりついて泣き喚いてしまいたい。
だけど…最後までそんな情けない姿を見せては、格好悪いではないか。


「落涙様、孫策様の元へお連れ致します」

「……はい、分かりました。宜しくお願いしますね」


呉軍の兵卒が、咲良を迎えに現れる。
孫策からの迎え、ということは…どうやら、皆は遠呂智を追い詰めることに成功したようだ。
知らないうちに、長い物語は終点に辿り着きかけていた。
だが、咲良自身が、最後の瞬間を見届けなければ、本来の意味でのエンディングを迎えることはないはずなのた。
仲間達の努力を、無駄にしないためにも。
心を決めた咲良は、涙を拭い、笛を手に立ち上がった。

その奇跡の瞬間の目撃者となろう。
必ず、世界は救われるから。
だから、咲良は信じることをやめたりはしない。


大地には亀裂が走り、至る所からマグマが吹き出している。
ぶくぶくと泡立っているそれは、古志城が死地であることの象徴であるように思えた。
あちこちに転がる事切れた亡骸を見ても、以前のように、目を背けることは無かった。
これが、現実だから。
受け入れなければならないものだから。
遠呂智が起こした争乱は、きっと悲しみしか生まない。
戦死者一人一人のために黙祷をすることは出来ないから、子守歌を、鎮魂歌として届けよう。

咲良は乾いた唇を舐め、本番に備えるため唇を馴らそうと、歩きながらも歌口に息を吹き込んだ。
ピィッ!と甲高い音が沈黙し始めた古志城に響き渡る。
たったそれだけで、終わりが近付いていることを感じた。


 

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