美しい時代に



「悠生…っ…!ああ…悠生…会いたかった…!!」

「咲良ちゃん…、本当に、咲良ちゃんなんだね…やっぱり泣き虫で…優しくて…僕の大好きな咲良ちゃんだ…!」


そんなことを言われたら、もっと泣いてしまう。
お互い、おかしいぐらいに声が震えていた。
咲良はいつものように涙を流すが、悠生は嗚咽を押し殺し、咲良の肩に額を押しつけている。
まだまだ、子供だと思っていたのに。
弟の心の成長を目の当たりにし、咲良は悲しみではない涙を流し続ける。


「咲良ちゃん…ごめんね、一緒に帰れなくて…僕は、此処に残りたい。咲良ちゃんのことは好きだけど、どうしても、離れたくない人が居るんだ」

「謝らないで…良いよ、分かってるから。悠生に友達が出来たって知って、凄く嬉しかった。ちゃんと自立してくれて、安心したから!」

「咲良ちゃんは相変わらず泣き虫だけどね!僕、そんな咲良ちゃんが大好きだよ。いつまでも…大好きなお姉ちゃんだよ…」


悠生は瞳に涙を滲ませながらも、笑ってみせる。
咲良もつられて、小さく笑った。
これほどまでに生き生きとした弟の顔を、かつて目にしたことがあっただろうか。
その友達は、悠生の中で、とてつもなく大きな存在となっているのだろう。
出来ることなら、お礼を言いたかった。
だが、咲良に残された時間は僅かである。
寄り道をしている暇など無かった。


「子守唄の歌詞、綺麗に纏めてくれてありがとね…私、頑張って演奏するからね」

「うん…僕も、ずっと聴いてるから…」

「ふふ…悠生…約束ね…幸せになって…私達の大好きな世界で…!!」


架空の物語じゃない、夢であるはずがない。
此処は、私達の故郷。
間違いなく世界の一員であったと、胸を張って言える。

咲良は悠生のあたたかさを感じながら、強く心に決めた。
無事に家へ帰れたとしても、私は二度と、ゲームのコントローラーを手にすることは無い。
もう、新しいゲームはいらない。
…一人で遊んだって、つまらないのだから。



END

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