美しい時代に



「咲良…これまで、あなたには多くの苦労をかけたわ。あなたひとりを目覚めさせることを、どうか許して…」

「苦労だなんて…、私は、大丈夫です。私の心は変わりません。あの…西王母様は、弟のこと…悠生のことをご存知で…?」

「ええ。悠生はとても愛らしく、優しい子ね…あなたによく似ているわ」


ふっと、優雅で美しい笑みを浮かべる。
悠生について語る西王母の表情は、不思議と、喜びに満ちているように思えた。
女神にとって、人の子は我が子同然。
それにしたって、彼女が口にする"悠生"の名に、強い想いを感じてしまうのだ。
それは咲良が悠生を大事に想う気持ちに、似通っているような気がした。


「実は…気付いていたかもしれないけれど、あなたを悠久の夢にいざなったのは、この私なの」

「西王母様が…?じゃ、じゃあ、一番最初の…私たちに語り掛けたあの声は、西王母様の…?」

「ええ…私が呼び寄せたかったのは、盤古の魂を持つ悠生…でも、悠生だけを連れてくることは出来なかった…咲良は悠生の夢にどうしても必要な存在だったから。あなたを巻き込んでしまったことを、謝るわ」


テレビの向こう、フリーズしたゲーム画面から響いた不思議な声…、それこそ、西王母の声だったというのだ。
きっと、それも夢のまた夢。
悠生とゲームをしていたこと自体が、夢の中の話だったのだろう。
そして、彼女の声の下で流れていた音楽…久遠劫の旋律とされた、生路という名の歌なのだ。

この世界の神様、盤古に近い存在とされた、悠生。
そんな悠生の夢に、引き込まれただけの咲良。
全てが始まった日のことを思い返してみても、もうずっと、昔のことのように感じる。
漸く辿り着いた真相を、咲良は驚くほど素直に受け入れていた。
すぐそこに、終わりが迫っているからなのかもしれない。
悠生はこのまま夢を見続け、咲良は目を覚ますことになる。
現実世界で、眠ったままの悠生がどうなるか…今は想像も出来ないけれど。


「私、悠生のことが大好きです。あの子の幸せが、私の幸せなんです!悠生は、私の知らないところで大きく成長しています。友達が出来たんだって、手紙で教えてくれました。だから…私が居なくなっても、悠生は強く生きてくれる。私も、あの子の幸せを想像して、生きていけるはずです」


美しき思い出を糧に、生きることが出来る。
それが、嘘偽りない、咲良が導き出した確かな答えだった。
無双の世界に投げ出された自分を、哀れだとは想わない。
多くの人と出会い、居場所を見つけ、ひとりの人間として生きた。
掛け替えのない友を得た、泣きたくなるほど切ない愛を知った。
此処は、もう一つの故郷。
いつになっても忘れることはないはずだ。
この熱い想いが冷めることは決して無い。
だから、咲良は笑ってさよならを言える。
晴れ晴れとした心で、子守歌を奏でることが出来るのだ。


 

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