美しい時代に



陸遜、関平ら織田軍の救援により、呉軍本陣は無事に持ち直すことが出来た。
勢いづいた呉軍は次々に噴火砲を制圧し、蜀軍は既に古志城の深層部まで突入していると言う。
そこに織田信長の軍勢が加わったとなれば、反遠呂智連合軍の勝利は決まったようなものである。

幕舎に戻った咲良は、意識を無くしてしまった貂蝉の傍らに座っていた。
大きな怪我はしていないようだが、敵と対峙して相当な衝撃を受けたのだろう、瞳を閉ざしたままの貂蝉は、苦しげな顔をしていた。


「無理をさせてごめんなさい…貂蝉さん…」


そっと手を握りしめた咲良は、貂蝉の指の細さに改めて驚く。
本来、錘は舞の道具である。
それを武器として扱わねばならない貂蝉の宿命に胸を痛め、友に無茶をさせている自分を責めるほかなかった。

無双の力を持つ、武将達。
手が届くはずもない存在だった、それがいつしか現実となり、咲良は実際に、彼らと共に戦ったのだ。
全てが終わったら、楽しかった夢から覚めるだけ…、今は、そんな風には思えない。
咲良にとっては、どちらも現実だ。
両親も、級友も、孫呉の皆も、比べられないぐらい大切な存在だ。

だが、ただ一つ、それに勝る存在があった。
誰よりも可愛がってきた、掛け替えのない弟。
大好きな悠生の幸せのためなら、この身が朽ち果てても構わないと思える。
離れ離れとなった日々が、咲良の中で、悠生への想いを確かなものとしたのだ。
その心は今も、これからも…決して変わらないはずだ。


「あ…、れ…?」


ふわっと、光が舞う。
咲良は視界をよぎった一筋の輝きを見付け、慌ててその行方を追い掛けた。
よくよく見れば、幕舎の中だと言うのに、あちこちに、蛍のような淡い粒子が浮遊しているのだ。
咲良はどきりとし、身を堅くした。
不可思議な現象など、今まで幾度と無く目にしてきた。
柔らかな輝きは悪いものとは思えないが、この本陣は古志城に近い場所に敷かれているため、万が一ということもある。
この幕舎の中には咲良と貂蝉しかおらず、誰も異変に気付いていない。

思わず、握り締めたままの貂蝉の手に力を込めてしまう。
彼女が長い睫を震わせ、薄く瞳を開いたとき…更なる異変が起きた。


「な…っ…!?」

「咲良様…?咲良様!?この光は…!?」


いくつもの光の粒が一斉に咲良を取り囲み、ぱんぱんと、次々に弾けていく。
視界が利かないほどの目映さに、咲良はどうすることも出来ない。
目を覚ました貂蝉が、すぐさま、光に取り込まれかけていた咲良を庇うようにして抱き締める。
だがそれでも、光は咲良と貂蝉を包み込み、何処かへと連れ攫った。


 

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