光に満ちた死
本陣は陸遜達が引き連れてきた織田軍の足軽により、周囲の防備を強固にしたため、没落する心配は無い。
「…関平さん…?」
「申し訳ありません、咲良殿。此処は戦場…しかも遠呂智との決戦の地。拙者とて、一刻の猶予も無いことは承知しております」
だけど、言わずには居られなかったのだと、関平は伏し目がちに口にした。
早く続きを、と無言で促す咲良だが、関平の視線は徐々に下がっていく。
揺れる瞳が、関平を悩ませているものが簡単なことではないと、咲良に教えた。
「悠生殿は、戦いを終えた咲良殿がこの世から消えてしまうことを、知っていました。拙者も…」
「えっ!?そんな…どうして…」
「他言無用とは言われましたが…、咲良殿はこうして生きているのに、拙者は全てを知っているのに、貴女を止めることが出来ないのです」
今にも泣きそうな顔をして、関平は心の内を吐き出した。
悠生のため、孫呉の人々の幸せのため、咲良は世界に殉じようとしている。
この世界には、死なせたくない人が多すぎた。
代わりに自分が消えたって構わない。
この世の幸せを守るためなら、本望だと思った。
だが、一番知られたくはなかった弟に、バレてしまうだなんて…。
「…怒られちゃいますね…あの子に…」
「咲良殿……」
「でも、私は自分がどうなったって、悠生に幸せに生きてほしかったんです。その気持ちは変わりません。だから…関平さん。そんな顔、しないでください」
静かに笑って、大丈夫だと伝える。
これは私が決めた生き方、選んだ道。
だから、何も心配することはないのだと。
「関平さん…関羽様を越えるような、立派な将になってくださいね!そして、宜しければ、悠生が大人になるまで…見守ってあげてください…」
「別れの言葉など…!咲良殿…貴女こそ、悠生殿のお傍に居て差し上げるべきでしょう!拙者は、貴女を守りたかったのに……」
「ありがとうございます。えへ…こんなときですけど、嬉しかったです。関平さんは、強くて、誰よりも優しい将になれると思います」
これ以上は、限界かもしれない。
今の咲良に、優しい言葉は凶器のようなものだ。
気を抜けば声をあげて泣いてしまいたくなるから、咲良は関平の言葉を待たずに背を向けた。
彼を、迷わせてはいけない。
関平の成長を、信長の元で多くを知った彼の最後の戦いを…邪魔したくなかった。
「ご武運を、お祈りしていますね」
「ええ…拙者、咲良殿の英雄になってみせましょう!!いざ、参ります!!」
背にぶつけられた大きな声を追えば、迷いを捨てた、輝かしい関平の笑顔を見た。
つられて、咲良も微笑む。
溢れた涙は、乾いた地に消えていった。
END
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