光に満ちた死
遠呂智兵の手が咲良に触れる寸前に、横から鋭い一太刀が降り下ろされた。
短い悲鳴と共に、絶命する遠呂智兵。
目に涙をためながら、恐る恐る顔を上げたら、そこには鮮やかな朱を纏う燕の姿があった。
大丈夫ですよ、と咲良を安心させるかのように、柔らかな笑みを浮かべてくれる青年。
かつて、小さな約束を交わし合った友…陸遜が居たのだ。
「うそ…陸遜様…!?どうして…」
「貴女をお助けしに参上したのです。咲良殿、よくぞご無事で…」
思わず震える手を伸ばせば、陸遜はしっかりと握り返してくれる。
あたたかさを感じたら、肩の力が抜けて…涙がこぼれた。
私はいつまでも、守られてばかり。
だけど、陸遜がこうして来てくれたことが、心から嬉しかった。
私達は友達だと改めて確認しなくても、心で通じ合うことが出来た気がしたのだ。
そして、同じように遠呂智兵を一掃し、ざっと地を蹴って此方に駆け寄る者がもう一人。
「咲良殿、お久しぶりです!」
「関平さん……」
「信長様が、孫呉に力を貸すためにと立ち上がられたのです。どうか、拙者達も共に戦わせていただきたい」
彼もまた、咲良の大事な友達であった。
陸遜と肩を並べる姿は珍しい光景であったが、それはとても喜ばしいことである。
真っ直ぐに咲良を見つめる関平は、記憶よりも少し、凛々しい顔をするようになったと思えた。
陸遜と、関平。
国を背負って立つ若者二人が、同じ志を抱いて、此処に居る。
呉蜀が再び手を結んだように、陸遜や関平も国という垣根を越え、織田信長の元に集い、そして救援に訪れた。
夢のような、現実だった。
咲良は涙を浮かべ、しっかり前を向く力を与えてくれた二人に深く頭を下げた。
「陸遜様…関平さん…ありがとうございます…!!」
「いいえ、良いのです。これで本陣は立て直せるでしょう。信長殿は孫策殿に合流されますので、私が呉軍本陣の守備を受け持ちます。関平殿は直ちに信長殿を追ってください。咲良殿はその御方と幕舎に…」
「陸遜殿、待ってください。拙者、少しだけ、咲良殿と話をさせていただきたいのですが…」
てきぱきと指示を出す陸遜を遮り、関平は神妙な面持ちで申し出た。
本陣が落とされかけていたと言うのに、悠長に話をする暇など無いだろう。
目的を見失った訳ではあるまい。
しかし、関平があまりに真剣な目をするため、陸遜も駄目だとは言えないようだ。
すぐに済ませてくださいと言い聞かせ、陸遜は咲良が支えていた貂蝉をそっと抱きかかえると、その足で幕舎に向かった。
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