光に満ちた死



(貂蝉さんが戦っているのに、ただ待つなんて、出来ないよ…!)


優雅に舞い踊るような、それでいて鋭い殺陣を見せる貂蝉は、乱世を生き抜くための武と強さを持っている。
だが、押し寄せる敵を彼女一人に防ぎきれるはずがない。
兵達も声を上げ奮戦しているが、僅かに敵の力が勝っているようだった。
貂蝉の綺麗な肌に傷を負わせるのは、嫌だ。
だが彼女は、此処で命が果てたとしても、咲良を守ろうとするだろう。
きっと、呂布と約束をしているから。
二人の中で、落涙…咲良は特別な存在として生きている。
未だ言の葉を交わしたことの無い鬼神の姿を思い浮かべ、咲良は胸が締め付けられる思いだった。


「貂蝉さんっ!」


剣を持って、戦うことが出来たなら。
弓や、槍を自由に扱えたなら。
人の命を奪う覚悟も無い自分には、武器は飾りにしかならない。
だから女禍は、笛が武器の代わりになるようにとアドバイスをしてくれたのだ。
その音で人の心を魅了しなさい、と。
最後の日を迎えたとき、貂蝉に与えられた落涙の名に恥じない、素晴らしい演奏をさせるために。

もしも、今すぐに笛を吹けば、場の形勢を逆転させることは出来るだろうか。
貂蝉ばかり戦わせる訳には…と、笛を握る手に力を込めた咲良だが、躊躇ってしまう。
最後まで、体が保つか分からないのだ。
日に日に体力の衰えを感じ始めていた咲良に、無謀を実行する勇気は無かった。
肝心なときに笛を吹けなかったら、それこそ皆に面目が立たない。


「きゃあっ!!」


貂蝉の背丈の倍はある妖魔が、彼女の錘を空高く弾き飛ばした。
途端、咲良を捕らえようと敵部隊がなだれ込んでくる。
地に伏せる貂蝉を見て、咲良は背筋がさっと冷たくなった。
同時に、止められないぐらいの強い怒りも感じた。
一瞬で、頭の中が真っ白になってしまう。


「私の友達に触らないで!!」


護衛兵の静止をも振り切り、力を失った貂蝉の元に駆け寄ろうと、咲良は我を忘れて敵の中に飛び込んだ。
己が狙われていることさえも気に止めず、咲良は倒れ込む貂蝉に覆い被さる。
友を救えないで、世界が救えるものか。
貂蝉は咲良のために戦っていた。
自分には、たった一人の友達を救う勇気さえ無いのかと、咲良は泣きそうになりながらも強く貂蝉を抱き締める。


 

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