ゆるやかに舞う



少女を見送り、残された咲良は周泰に背を向けて俯いていた。
子を授かれなかったことが心残りだ、と咲良は寂しそうに言っていたのだ。
きっと傷付いている、と思い、周泰は後ろから彼女を抱き締める。
咲良は周泰の手を包み込むように手を重ねた。
その手は、少しだけ震えているようだった。


「この戦いが終わって、世が静かになる頃には、きっと元気な子が生まれているでしょうね。あの子のような子供たちが幸せに暮らせる世界を守ってあげられるのなら…私はそれで…」

「…貴女はなんて…」

「幼平様。この手鞠を受け取ってくださいませんか?いつか、お役に立つ日が来るかもしれません」


核心を突いた言葉では無くとも、それが周泰にとって絶望的な一言であることを、咲良は知っているはずだった。
別の女と子を成してほしい、そういうことだ。


「幼平様。私は、幼平様のことが大好きです。お慕いしています。その幼平様の御子ならば、我が子とも変わりありません」

「……、」


咲良は、十七の娘だ。
身分も無いような楽師として生きていた。
そんな彼女が、周泰を想い、これほどに気高いことを口にする。
……また、妻を娶ろうなどと、思えるはずがなかった。


「…約束致します…この手鞠を…我が子に与えると…」

「ありがとうございます。きっと、大事にしてくださいね…」

「……、」


それが強がりだと、周泰の未来を願う悲しい優しさだと、分かっていても。
心から幸せだと、幸せだったと…その笑顔が教えてくれた。



END

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